注意! この小説は精神を汚染する可能性があります。ATフィールド全開でお読み下さい。











作:尾崎貞夫


前編


「ほらシンジぃ、早くしないと、リニアが行っちゃうわよ」
散らかった部屋の入り口に、一人の若い女性が腰に手をあてて突っ立っていた。

「うん、わかってるよ……アスカ」
シンジと呼ばれた青年は、鞄に荷物を詰めながら答えた。

「まだここにいたのか……必要な物があったら後で送ってやるからもう行け」
年の頃は50代前半の顎鬚を蓄えた男が玄関から声をかけた。

「ほら、そうしようよシンジ!でないと、指定席券がムダになるじゃ無い!」

「うん、わかったよ」シンジと呼ばれた少年は鞄を手にして立ち上がった。

「それじゃ、行って来るよ父さん」
「叔父様、ありがとうございます」

慌てて駆け出していった息子のシンジと幼なじみのアスカの後ろ姿を見ながら、
碇ゲンドウは感慨にふけっていた。

「ユイ……シンジも、もう18歳だ……真実を知っても、受け止める事が出来るだろう」
顎鬚を蓄えた男は胸からロケットを取り出した。

時代物のロケットの中には、二人の嬰児を抱いて笑う、今は亡き彼の妻の写真が入っていた。


駅の構内に、列車の到着を示すアナウンスの声が響き始めた。

「ふぅ〜間にあったようね」
「待ってよ、アスカ」
「どうかしたの?」惣流アスカは、振り向いた。

「ちょっと小物を落としてしまったんだ……あ、あったあった」
碇シンジは、鞄の外側のチャック式の袋に、散らばった小物を放り込んだ。

「あ、これ探してたのに……荷物に入ってたのかぁ 探しても出てこない訳だ」
少年は、安っぽいプラスチック製の玩具の指輪を内ポケットに放り込んで立ち上がった。

「ほら、列車が来たわよ」

構内に、列車が運んで来た空気が吹き込んで来た。

二人は列車に乗り込み、指定席を確認して席についた。

少しして、列車は音も無く、動き始めた。

2015年の現在、一部の地方線を除く殆どの鉄道はリニア化していた。

「ふぅ、荷物の整理してて、昼御飯食べ損なったよ」シンジは腹に手をあてて言った。

「そんな事だろうと思って……ほら、食べなさいよ」アスカは荷物の中から、
サンドイッチの入ったプラスチックのパックをシンジに差し出した。

「アスカ、ありがとっ」言うが早いか、シンジはアスカの手からサンドイッチのパックをひったくって封を開けた。

シンジは矢継ぎ早に3切れのサンドイッチを頬張った。

アスカは、景色を見ているふりをしながら、窓に写る、サンドイッチを食べているシンジを見ていた。

「んんっ」シンジは玉子サンドイッチを食べかけて唸った。

「ねぇ……このサンドイッチ、アスカが作ったの?」

「な、何言ってるのよ、何で私があんたにサンドイッチ作らなきゃいけないのよ……」

「けど……玉子のカラが入ってたし、塩加減も全部ばらばらだったし……」
最後まで言わせずに、アスカはシンジからサンドイッチのパックを取り替えした。

「文句言うんなら、食べなくてもいいわよ」

「……ごめん」シンジは少しうな垂れた。

「わかったんならいいわよ」そう言って、アスカはそっとシンジの食べかけの玉子サンドイッチを口に入れた。

アスカは歯に、玉子のカラの破片の感触を感じた。

アスカは目を閉じて、それを飲み込んだ。

「ねぇ、玉子のカラが入ってたのに、食べてくれたの?」

「……アスカが作ったんだなって思って……」

「バカ……」

「けど、あんたが、私と同じ大学受験してたとはねぇ……しかも受かるなんて信じられなかったわよ」

「家庭教師が愛の鞭でビシビシと鍛えてくれたからね」シンジは、数ヶ月前のことを思い出していた。

「幼なじみのあんたが、同じ学校受けて、あんただけが落ちたら可哀相だったからよ……」

「感謝してるから……サンドイッチ食べさせてよ」

「……」アスカは黙ってサンドイッチのパックを差し出した。


食べ終えて、窓に頭をあてて、うとうとしているシンジを、アスカは見ていた。

どうして、こんなやつ……好きになったんだろアスカもそっと瞳を閉じた。



同時刻

碇家の書斎

「ユイ……俺を許してくれるのか……命を弄んだ俺の事を」
ゲンドウは、万年筆で日記に何かを書いている時、背後に気配を感じて振り向いた。

「どうした……忘れ物か? お……おまえがなぜここに……封印が解けたのか……」
次の瞬間、ゲンドウの身体は、内部から破裂して、周囲に四散した。

机の上の日記の開かれたページにも、ゲンドウの血がこびりついていた。



列車は第二新東京市に到着した。

「ほら、乗り換えには5分しか無いんだから、急ぎなさい」
「なら、少しは荷物もってよ……」シンジは荷物を抱えて、アスカの後を追った。

二人は市内線に無事乗り込む事が出来た。

列車は発車し、周りの景色には、ちらほら緑が残っていた。

二人は、この第二東京市の西の、川沿いに校舎の立ち並ぶ、第二東京大学に入学する事になっているのだ。

十数分後

「えっと、降りるのは次だっけ」

「大学は次だけど、これから行く所は、二つ先だそうよ」

「けど、どんな所なんだろうね」

「父さんが言うには、僕たちが小さい頃、一度僕たちも行ったことあるそうだよ」

「そうだったかしら……覚えて無いわよ」

「多分、おじいちゃんが死んだ時の葬式で来たんじゃないかな」

「私もそれについてきたって? あ、あの頃はパパとママは外国だったわね……シンジの家に住んでた頃かな」

「そうだね……建物は古いらしいけど、部屋はいっぱいあるそうだし」

「そりゃそうよ、あんたと一つ屋根の下で住むだけでも噴飯ものなのに、部屋まで同じだったら帰るわよ」
アスカは心にも無いことを言った。

「なら、着いて来なければいいのに……」シンジはぶつぶつ言っていた。

「言っとくけど、私とあんたは只の幼なじみなんだから、同じ家で住むって言っても勘違いしないでよね」

「わかってるよ」

「……わかってないわよ」アスカは小声で呟いた。

そうこうしている内に、列車は目的地に到着した。

二人は駅の階段を降りていた。

「何でも、お手伝いさんが、迎えに来てくれるって言ってたよ」

「誰も住んでないのに、お手伝いさん?」

「おじいちゃんの、いとこで、近くに住んでて掃除してくれてるって言ってたよ」

「電話ボックスの前って言ってたような……あ、手を振ってる」二人は階段を降りて、電話ボックスの前まで歩いていった。

「お世話になります。 シンジです」シンジは、会釈した。

三人は歩きながら話し始めた。

「あのシンジ坊ちゃんがこんなに大きくなって……私が歳を取る筈よねぇ」90歳に近いというのに、彼女は足腰も丈夫だった。

「シンジ坊ちゃんだって」アスカはシンジを冷やかしてた。

「そっちのお嬢ちゃんと、一緒になるのかね?」

「僕たち、まだ18歳ですよ」

「18歳なら、法律上問題無いんじゃ無かったかね?」

「そんなんじゃ無いんです」

そう言いながらも二人は真っ赤になっていた。

だが、アスカはシンジが真っ赤になって否定してくれて嬉しかった。
自分のことを意識してくれている事を再確認できたからであった。


「ほら、ここじゃよ。もう大きい荷物は部屋に置いとるから」
「注意しとくけど、こっちの棟には近づかん方が良い」老婆は木造の建物を指を差した。

「何で?お化けでも出るの?」アスカが軽口を叩いた。

「昔は納屋じゃったけど、ゲンドウ坊ちゃんが研究室にしとったから、割れた試験管とかが散らばっとるから」
シンジの父、碇ゲンドウは生物化学の権威であり、第三東京市にある、私立大学で教授をしているのであった。
セカンドインパクトの後の時期を、ここで妻、ユイと過ごしたそうだ。

「うん、わかったよ」

「一階が居間と台所と風呂・便所 で二階に4つ部屋があるけど、西の二部屋は荷物を押し込んでるから、
東の部屋がシンジ坊ちゃん、その隣がお嬢ちゃんの部屋だから

二人は一通り、家の中を案内された。
全体的に、各部屋は広く設計されていた。

シンジとアスカのそれぞれの部屋も、掃除が行き届いており、窓から、裏山の木々が覗いていた。

「必要なものがあったら、5分ぐらいの所に、”こんびにえんす”があるし、何とかなるじゃろ。」

「晩御飯は持って来るから、朝と昼は自分達でな」

「それじゃ、また夜にでも」そう言って、老婆は帰って行った。

二人は荷物を開けて、とりあえず必要な物を取り出して、たんすに並べていった。

「ふぅ、汗かいたから、シャワーでも浴びてくるわね」

「シャワー無かったよ?普通のお風呂だけ」

「うっそー」

「さっき見にいった時に見なかった?」

「まぁいいわ……覗かないでね」

「わかってるよ」

アスカが階段を降りる音を聞きながら、僕は畳の上に横になった。

「これから、四年間もアスカと暮らすのか……」だが、悪い気がしないのも事実であった。
気苦労が絶えないであろう事も約束されていたが。

「冷た〜い シンジぃ」早速アスカの叫ぶ声が聞こえて来た。

「そういえば、ガスの元栓は締めてあるって言ってたっけ」シンジは階段を降りながら呟いた。


「ほら、元栓開けたから、お湯が出てくると思うよ」曇りガラスの扉の向こうにいるアスカに僕は声をかけた。

「風邪引いたらどうするのよぉ〜」アスカは曇りガラスの向こうから僕をなじり続けた。

シンジは曇りガラスにぼんやりと映し出されている、アスカのプロポーションを見ていた。

「まだ……整理が残ってるから」シンジはかぶりを振って立ち上がり、二階の自室に上がっていった。

「初日からこんな事じゃ……先が思いやられるな」シンジは天井を見ながら呟いた。

そして、6日後の満月の夜……

草木も眠る丑三時……

シンジは寝付けずに、布団の中でごろごろしていた。

最近、とみにアスカがシンジを挑発しているように感じたからであった。

心憎く思って無い相手と同じ屋根の下に住んでいるのだから、仕方の無い事ではあった。


「……トイレにでも行って来るか」シンジはアスカを起こさないように、すり足でアスカの部屋の前を通り、
懐中電灯で足元を照らしながら、階段を降りていった。

「電球が切れてるのか……まぁいいや」シンジは懐中電灯を足元に置いた。
シンジはトイレで用を足しながら、開かれた窓から、夜景を見ていた。

「ん?」シンジの視界の隅に、僅かな明かりが見えた。

近所の家に住む、いつも世話をしてくれている老婆が、手にランプと袋を持ち、
シンジの目の前を横切って、向かいにある棟に入って行くのが見えた。

シンジは、好奇心に駆られて、そっとトイレを出て、台所の通用門に出て、サンダルを履いて後を追った。

月の僅かな光の元、シンジは気づかれないように、老婆の入っていった棟に入っていった。

老婆は奥の方で、何かを持ち上げていた。

どうやら、それは地下室への入り口のようであった。

老婆は置いていたランプを手に下に降りていった。

数分後、老婆はランプだけを手に上がって来た。

シンジは息を潜めて、老婆が通り過ぎるのを待っていた。

「恐くなんか……無いぞ」シンジは胸ポケットからなにかを取り出して、それを握っていた。
シンジのお守りかなにかであろう。

老婆が外に出ていったのを確認して、シンジは地下への階段の蓋を上げた。

すえたような匂いが鼻をついたが、シンジは勇気を振り絞って、懐中電灯で足元を照らしながら降りていった。

「なんだこれ……座敷牢?」シンジは恐る恐るライトを、鉄製の格子の向こうに当てた。


「うわぁぁぁぁ〜っ」



後編に続く!



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