「何でこんな事になったんだろう……」
ゲンドウはまるでスキップでもしそうな程浮かれているユイを連れて
鴨川の土手を歩き自分のアパートへと向かっていた。
土曜日の昼下がり……鴨川の水面にどこから流れて来たのか銀杏の葉が淡く揺れていた
「私…… 一年の中で秋が一番好きなんです……」
ゲンドウはユイも同じものを見ていた事を知り少し驚いた。
「確かに京都は夏は蒸し暑くて冬も極端に寒い……春は花粉が飛ぶし、秋が一番いいかも知れんな」
ゲンドウは少し考えて真面目な顔をして答えた。
「六分儀先輩って理論派なんですね」
ユイはにこにこしながらゲンドウの後を追っていた。
だが、ゲンドウは振り向いてユイの顔を見る勇気は無かった。
六分儀ゲンドウ 21歳の春の頃であった……
「恋愛小説家・ゲンドウ」
この作品は、映画”恋愛小説家”とエヴァのリミックスFF(ファンフィクション)です。
第4話「理解されざる者(後編)」
作 尾崎貞夫
10分程鴨川の土手を歩いていると、ゲンドウのアパートの紺色の屋根瓦が見えはじめた。
土手を降りてからアパートまで二分とかからず、ゲンドウは二階の自室に招き入れた。
本当は部屋の外で待たせたかったのだが、二階の廊下は前の道路からまる見えなので
妙な噂が出るのが恐かったのだ。
「うわぁ〜意外とこざっぱりとしてますねぇ」
・
メソでもいるのか?(謎)
・
ユイは珍しそうにゲンドウの部屋を見回した。
「ちょっと待っててくれ 取って来るから」
ゲンドウはたまに叔母が訪ねて来る時に出す上等な座ぶとんを取り出し、
ユイに座って待って貰おうとした。
「うわぁ〜窓を開けたら鴨川が見える いい部屋ですねぇ」
だが、ユイは座るかと思いきや、窓に近づいて行き窓を開けた。
「トイレも風呂も共同だから家賃は安い……もっとも他の住人はいないがね」
ゲンドウは部屋の隅の段ボール箱を開けて目的の物を探していた。
いかにも怪しそうなゲンドウが夜な夜な小説を書きながら怪しい独り言を言うのが
原因で、殆どの住人が去った事を当の原因のゲンドウは知らなかった。
「ふぅ……取り敢えず原稿用紙に書いた作品が15ぐらい……後はこのMOに入れてある」
ゲンドウは目的の物を手にユイのいる方に歩いて行った。
「こんな貴重なもの……お借りして宜しいんですか?」
紐で閉じられた原稿用紙の束を見てユイはゲンドウの顔を見上げた。
「ここまでついて来ておいて今さら遠慮しなくてもいい
原稿用紙の方もコピーは取ってあるから問題は無い。」
ゲンドウは丈夫な紙袋に原稿用紙を詰めながら言った。
「ありがとうございます……その……感想書かせて貰います」
「気にしなくていい」 ゲンドウは恥ずかしいのかユイに背を向けて台所に向かった。
「しまった……」
湯のみを二つと急須を用意し、茶っ葉が入っている缶のふたを開けたが中は空だった。
「何かあったかな……」
ゲンドウは冷蔵庫を開けながら呟いた。
ゲンドウの冷蔵庫の中には モ○ やリゲ○ンやユ○ケルが立ち並んでいた
執筆中の眠気覚まし等で大量に消費するのだ……
「確か普通のジュースが二本ぐらい……」
ゲンドウは必死になって普通(?)のジュースを二本取り出した。
「すまないが 今はこんな物しか無いんだが……」
ゲンドウはユイが座っているテーブルの正面に腰を降ろした。
「メ○コ○ル ですか 私このようなジュース初めて飲みます 」
ゲンドウ……○ッ○ールが普通なのか? 冷えているだけマシか……
ユイの言葉を聞いて、初めてゲンドウはちとまずかったかなと後悔したが、
一息で○○コールをユイが飲み干したのを見て少し安心した。
「これ……癖になりそうな味ですね けふっ 」
ユイは笑顔で言ったが、その直後咳をした。
「す……すまん 次からはまともな飲み物を用意しておくから」
「いえ、私この飲み物気に入りました あ……」
ユイは答えてから先程のゲンドウの言葉を思い出していた。
「どうかしたかね?」
「次からはって事は……また来てもいいんですか?」
ユイは頬を少し赤らめて恥ずかしそうに言った。
「べべ別に止める理由は……無い」
「ふふ」
ユイはゲンドウが自分の言葉に焦っているのを見て笑みを浮かべた。
「ん?」
「六分儀先輩って本当に可愛い人ですね」
「六分儀先輩 今日はありがとうございました」
ユイは靴を履きおえてからゲンドウにおじぎをした。
「いや……こちらこそ……その 荷物が多いが……大丈夫かね」
「ええ 大丈夫です 私……山歩きとか好きなんです これぐらい平気ですよ」
「それじゃ……」
一瞬送って行こうかと感じたが、ゲンドウはその一歩を踏み出す事が出来なかった。
「失礼します」
ユイは愛しげに紙袋を胸に抱いて階段を降りていった。
ゲンドウはユイが土手に上がって見えなくなるまでその姿を追っていた。
* * * * * * *
初めてユイと出会ってからもう四ヶ月経過していた。
部室や時には自分のアパートでユイと小説の事や研究の事について話す事は
ゲンドウがこれまで張り詰め続けて来た気が休まる瞬間であった。
だが、二人の間柄は趣味を同じくする先輩と後輩を越えるものでは無かった。
むしろユイの方がゲンドウを慕ってさりげなくデートのようなものを誘ったりして
いたのだが、ゲンドウはもう一歩を踏み出す事に躊躇していた。
その二人の微妙な関係も二人の時間が多分にある間は保たれて来ていた。
だが、ユイが冬月研(旧横山研)に所属する事になり、
部室に頻繁に来れなくなり、二人の微妙な関係は崩れそうになっており、
ゲンドウもその事については把握していたものの、為すすべも無かった。
そんなある日の昼下がり……
ゲンドウは部室に顔だけ出し、ユイがいない事を確認してから家路につこうとしていた。
午後一時の夏の日差しは厳しく、ゲンドウは流れる汗を拭いていた。
「そういえば、もう保存食が無くなってたな……」
季節柄生物はすぐ傷んでしまい、消費量の多くない一人暮らしのゲンドウにとっては
この時期は保存のきくものばかりを買い置きして食べていた。
「今日は外食でもするか……」 今日はずっと暑苦しかったので生ビールの一杯でも
飲みたい気分だったので、ゲンドウは三条小橋界隈の居酒屋や飲み屋の多い一角へと
足を向けた。
大学からは徒歩で15分の好位置にあるので、
土曜日と言う事もあり三条小橋付近は学生の姿で溢れていた。
ゲンドウは大手チェーンの居酒屋にふらりと入り隅の方の小さい席に陣取った。
「生の中ジョッキと焼き鳥二人前と卵焼きを貰おうか」
注文取りが来たので、ゲンドウはメニューをちらりと見て注文した。
少しして焼き鳥とビールが来たので、ゲンドウは焼き鳥をつまみ、ビールで喉に流し込んだ
ビールの味は今の自分の心境と同じくほろ苦かった。
その時、他ですでに出来上がっているのか泥酔した大学生の五人組が店に入って来た。
「席が空いてますよ 座りましょうや 先輩」
「おおすまんのぉ しかしこの店には女気が無いのぉ」
「居酒屋ですからねぇ……まだ昼ですし」
「おや、店の隅で辛気くさい顔してるの、あれ六分儀じゃねぇか?」
五人組の中でもっとも年長の男がゲンドウを指差した。
「あいつ 確か碇ユイと同じサークルに入ってたよな……」
「そのユイって女もどうしてあんな奴と……」
ゲンドウは五人組の男が自分の話をしている事に気づいてはいたが、
さしたる興味もわかなかった。
「ユイって女もあのゲンドウって奴にひっかかるようなら、とんだ売女かも知れんな」
年長の男は言ってはいけない事を言ってしまった事に気づいてはいなかった。
ゲンドウがゆらりと立ち上がり年長の男の元へ歩いて来た。
「訂正しろ……俺の事をどう言おうが構わんが、彼女は関係無い 無関係だ」
「訂正しないと言ったら?」年長の男が不敵な面構えで凄んだ。
ゲンドウは目をすっと細め、相手に体当たりした。
「てめっ やる気かっ」
「みんな やっちまえ!」
店内はあっと言う間に闘争の場と化してしまっていた……
* * * * * * *
「冬月教授 2番にお電話です」
冬月は学生が提出して来たレポートに目を通していると事務員が話しかけて来た。
レポートに夢中だった為、電話がかかった事を示すランプに冬月は気づいていなかった。
「吉永さん 私はまだ助教授ですよ」
冬月は苦笑しながら机の上に山積しているレポートをどけて電話機を探り寄せた。
「横山前教授から研究室を受け継いで、その横山教授は南極行きでしょう?
冬月助教授の助が取れるのも時間の問題ですよ」
事務員はにこりと笑って去っていった。
「ふぅ……」
眼が疲れているのか眼が少し霞んだので冬月は立ち上がり遠くに見える山々を見ながら
受話器を取った。
「六分儀ゲンドウ? 聞いた事はあります。
いえ、面識はありませんが……いろいろと噂の絶えない男ですから」
電話の相手が警察だと知って一瞬あせったが、
次には自分と関係の無い生徒の名前が出たので冬月は不審そうに眉をひそめた。
「え?私を身元引き受け人に?
いえ、うかがいます いつ伺えばよろしいでしょうか」
冬月は一瞬言葉に詰まったが、少し考えて返答した。
「噂の絶えない男か……その噂が真実か……見極めに行くか」
冬月は白衣を脱ぎ椅子にかけて、コートを羽織って部屋を出た。
京都府警察署
「ある人物からあなたの噂を聞きましてね…… 一度お会いしたかったんですよ」
左頬を腫らした六分儀ゲンドウは不敵そうな笑みを浮かべながら言った。
「酔って喧嘩とは意外と安っぽい男だな」
噂はどうやら真実のようだ と言いたげに冬月は目を閉じて言い放った。
「話す間も無く一方的に絡まれましてね
包帯を巻かれている右手を左手で支えながら ゲンドウは悪びれた感じも無く言った。
一方的に絡まれたのは事実だが、先に手を出したのはおまえだろう……
確かに嘘はついてはいない…………
「人に好かれるのは苦手ですが、疎まれるのは慣れています」
ゲンドウのその開き直ったかのような言葉を聞き、冬月は歩きはじめた。
無言で歩きはじめた冬月の後を、さも当然かのようにゲンドウはついて歩いていた。
ゲンドウはユイが誉めちぎる冬月助教授とやらを見極めたかったようだ……
だが……その心の底には 冬月のようなタイプの人間を初めて見たので
何かのネタに出来るかも知れないと言う、物書きとしての打算であった。
「ならば私には関係無い事だ」
いつまで着いて来るつもりかと言わんばかりに
冬月は足取りを早めてパトカーの脇を通り抜けた。
「冬月先生 どうやらあなたは僕が期待した通りの人のようだ」
ゲンドウの頭の中には”やはりネタになりそうだ 今度書く小説に出してやる”
と言う考えが渦巻いていた。
冬月から返事が帰って来なかったのでゲンドウは歩く速度を緩めた。
「噂どおりの朴念仁だ……心配は無さそうだな……」
ゲンドウは冬月に惹かれているユイに危機感を感じていたのか
にまりと微笑んでつぶやいた。
「ユイを手にいれる為なら……」
これまでゲンドウに関するいろんな噂が流れていたが、その殆どはデマであった。
人に疎まれる事に慣れはしても寂しさを癒す事は出来ない……
その唯一の希望であるユイを手に入れる為なら他人にどう言われてもかまわない……
ゲンドウは少々不穏な決意をし、足早に帰宅した。
その後 ゲンドウは用事と称してユイを部屋に呼び、凶行に及ぼうとしたが、
ユイはユイでついにゲンドウがその気になってくれたのかと勘違いしており、
ゲンドウに告白し、ゲンドウは振り上げた○○○○(謎)を降ろす必要も無く
二人はついにまとまってしまったのであった。
* * * * * * *
数ヶ月後……ユイは冬月研のレクレーションで紅葉の眩しい山に来ていた。
「本当かね」
「はい 六分儀さんとお付き合いさせて頂いてます」
「君があの男と並んで歩くとは」
「あら冬月先生 あの人はとても可愛い人なんですよ みんな知らないだけです」
「知らない方が幸せかも知れんな」
「あの人に紹介した事、ご迷惑でした?」
「いや、面白い男である事は認めるよ」
冬月の肩はがっくりと力なくたれ下がっていた……
その後 人類進化研究所長となってから恋愛小説家としてデビューし、
セカンドインパクト直前に南極にいたものの、小説のスケジュールが遅れすぎ
出版社に拉致され箱根の山荘にて缶詰になっている間にセカンドインパクトが起き、
難を逃れる事となった……
その後のユイを失ってからのゲンドウについては語るまでも無いだろう……
赤木ナオコには言い寄られるが乗り気で無く、
その娘の赤木リツコに惹かれ始めるのであった……
碇ゲンドウ……あしたはどっちだ?(謎)
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