いつになく平穏な日々……だが、使徒の襲来に脅える日々でもある……

司令所のメンバーは最近取れなかった休みを三連休と言う形で交代で取る事にしていた。
それは、NERV司令 碇ゲンドウにとっても同じ事であった……

久々に何の妨害も無く連載分とこれまで少しづつ書き溜めていた書き下ろし一本を
三連休の三日目の午前11時までに仕上げ、ゲンドウはノートパソコンを畳み、
いつもの腕組みをしてうたた寝しながら、昔の事を思い返していた……

それはゲンドウが理解されていた幸福な刻(とき)の思い出であった。

理解されざる者……それはまるで存在を許されざる者と同義として扱われる……
人は己の許容範囲を越える存在を見た時、否定するしか方法が無いのだろうか……


「恋愛小説家・ゲンドウ」

この作品は、映画”恋愛小説家”とエヴァのリミックスFF(ファンフィクション)です。


第3話「理解されざる者(前編)」

作 尾崎貞夫


話は遡る……


六分儀ゲンドウが大学で二年目を迎えたばかりの春の出来事であった。

この頃は髭は生やしてはいなかったものの、
その特異な風貌と雰囲気を持つゲンドウにあえて近づこうとする者は誰もいなかった……

幼い時に母を亡くし、国会議員であった父とも切り離されゲンドウは乳母のような存在の
母方の叔母に中学三年まで育てられていた……

一年生の時にいくつかゼミに入ろうとはしたものの、いつも助教授や先輩と研究の事で衝突
し、今や彼は完全に孤立していた。 ある一点を除いては……

叔母の綾波ヨシコが子供向けの小説を書くのが仕事だった為、
ゲンドウは幼い頃から叔母に薫陶を受けていた為、
叔母の薦めもあり文芸系のサークルに入っていたのであった。

部員はゲンドウを入れて5人 内3人が幽霊部員状態だと言う事もあり、
ゲンドウも人数確保と言う点から迎え入れられていたのであった。

ゲンドウは部室でレポートを漫然と書きながら時間を潰していた。

その時、弱々しい叩き方で二度部室のドアを叩く者があった。

「扉なら空いている……」 ゲンドウはレポートから顔も上げずに答えた。

「あの……こちら文芸サークル”日本仏蘭西化計画”の部屋ですよね……」
扉の向こうから女性の声が聞こえて来たので、ゲンドウはふと顔をあげた。
・%・怪しさ大爆発・%・

「ああ……そうだが」 ゲンドウはレポートに再び視線を落として答えた。

「あの……入部希望なんですけど……入っても宜しいでしょうか」
声の主は問いかけながらもすでに扉を開けていた。 いい性格をしているようだ。

「今日は部長出てきて無いんだけど、ここは基本的に来る者は拒まずだから」
ゲンドウはレポートをまとめてようやく顔を上げて来訪者の顔を見た。

ほんの数秒ではあったが、ゲンドウは来訪者の顔を凝視していた。

その後、ゲンドウは来訪者 碇ユイを座らせてサークルの説明等を行っていた。
ゲンドウが話している間、碇ユイは神妙な顔つきでゲンドウの言葉に耳を傾けていた。
そして、話は入部の動機にさしかかった。

「あの……昨年の大学祭の時にここのサークルの出した本を読ませて頂いたんです。
水桜由紀さんって方の作品を読んで感動したんです……そのような訳で入部を志しました」
水桜由紀と言う名前が出た時、ゲンドウは冷や汗を流していた。

昨年の大学祭の際、ゲンドウも作品を出さざるを得なかったのだが、
すでに学内では変人で通っている自分の名前で作品を出す事に抵抗を覚えていたのだが、
部長がそれを察してペンネームを考えてくれたのであった。
部長曰「作品の感じから行くとこういうペンネームが似合うと思うの」

「水桜さんはまだ卒業されてませんよね」 ユイは希望に眼を輝かせて呟いた。

「……水桜と言う名の部員はいないみたいですねぇ……私もよくは知らないんですが……」
ゲンドウは部員の名簿をぱらぱらとめくって言った。

確かに嘘はついてはいない……水桜由紀なる人間はいない……あくまでペンネームだからだ

「そう……ですか」 ユイは残念そうに少し肩を落とした。

数分後 明日から来ると言うユイは部室を出て行き、ゲンドウはため息を一つついた。
「ここも……居づらくなったな……」
ゲンドウは大学を辞める事まで考え初めていた。
父が大学などに通うより国会議員である父の私設秘書にでもなって早く政治を学んで欲しい
と会う度に言うのである。
最初、ゲンドウが大学に行くと言った時には賛成したのではあるが、
経済学などより科学に興味を持ちはじめた今となっては大学での残りの数年は遠まわり
にしかすぎないとゲンドウの父は考えているようであった。

ゲンドウは鴨川沿いにあるアパートに帰る為、ゴムバンドでまとめた本を手に構内を歩いていた。

「六分儀君!」 ゲンドウは白衣を着た学生に呼び止められた。

「確か……横山研の石田だったか」 ゲンドウは振り返っていった。

「君を探してたんだよ」 石田と呼ばれた男はゲンドウの元まで走って来た。

「何の用だ……俺はもう横山研とは何のかかわりも無いんだが……」
ゲンドウは不機嫌そうに鼻の頭を拳で拭いた。

「ホメオスタシスの原理で横山教授と揉めた件だけど……やっぱり君の言う通りだったよ
教授のミスだったんだ 最近横山教授もその事を認めたみたいで態度が軟化してるんだ
だから……また横山研に戻って来ないかと思って……」

「もう俺にとっては横山研は終わってるんだ……それに俺には集団研究は向かないよ」
ゲンドウはこれ以上の会話は無用だと言わんばかりに石田に背を向けた。

「そうか……最近冬月助教授を中心に結構成果出てるから君にもと思ったんだ……
もしその気になったら訪ねて来てくれよ」
石田はすでに歩きはじめたゲンドウの背に向かって話しかけた。


そして翌日の土曜日……

ゲンドウは午前中に授業を終え、昼食をとった後部室に向かっていた。

「あの娘……俺の顔を見ても物怖じしなかったな……」
ゲンドウは昨日部室を訪れた碇ユイの事をふと思い浮かべた。

「…………だが……」
だが、ゲンドウ自信が水桜由紀と言う名の人間が存在しない事を告げた事で、
彼女が再び部室に来る可能性を下げてしまった事を少し後悔し始めていた。

昔から頭だけは良く、生徒会長などもやった事はあるが、
ゲンドウの姿を見ると普通の生徒はいつもビクビクしているのを見てゲンドウは
口には出さないものの孤独を感じていた。

「取って食う訳じゃあるまいに……」
ゲンドウは昔の口癖を思い出して苦笑した。

そうこうしている内に部室に辿りつこうとしていた。

「一応部長に昨日の事伝えとく必要があるからな……」
ゲンドウは自分に嘘をついていた。
自分を見て物怖じしない……そしてとても可愛いユイを見て、
さしものゲンドウも少し舞い上がっていたのだ。

だが、理解されるとは限らない……

「希望など持たずに生きていられたら……」
ゲンドウはため息を一つついてドアノブを回した。


「沢山作品書きだめしてるみたいだけど、見せないんだよ ゲンは」
「へーそうなんですかぁ」

部屋の中では部長の吉田美幸と碇ユイがポテチをつまみながら話をしていた。

「あ、六分儀先輩……昨日はよくも騙してくれましたねぇ」
ユイは部屋に入り呆然としているゲンドウに話しかけた。

「部長……話したんですか?」
ゲンドウはユイを一瞥して部長に詰め寄った。

「あらら……ゲンちゃん怒ってる? 水桜由紀さんの連絡先教えてくれって
ユイちゃんが泣くから……」
4回生で二才上の吉田美幸もゲンドウに詰め寄られるとたじたじである。
だが、さらりと躱せるのは年の功であろうか

「六分儀先輩……私が先に話してたんですよ」
にこやかに微笑んではいるがユイの言葉には迫力があった。

「お……すまん……あ……言って置くが私は嘘をついちゃいないぞ……
水桜由紀と言う名前の部員はいないと言っただけだ……
君がそれを勝手に勘違いしただけで……」
ゲンドウは必死になって弁解を始めた。


「六分儀先輩って……可愛い人ですね」
必死に弁解しようとしているゲンドウの目を見つめてユイは呟いた。


「あははユイちゃん ゲンちゃんを可愛いって言うのは世の中広しと言えど……」
そこまで言った処でゲンドウが振り向いてこめかみを引きつらせた。

「その……すまん」
部長が沈黙したのを確かめてゲンドウはユイに頭を下げた。

「六分儀先輩 そんな頭なんか下げないで下さいよ
それに六分儀先輩に私憧れてるんですよ」

「私に?」 ゲンドウはきょとんとした顔で答えた。

「水桜早紀の名前で書かれた小説を読んだ時、
私絶対この大学に入るって決意したんですよ……
男の人だって事は分かりませんでしたけど、男か女かって事は関係無いです」
ユイはゲンドウの目から視線を外さずに語った。

「ゲンちゃん よかったじゃない いい理解者が出来てさ」
部長がさりげなくゲンドウの後ろに立って肩を叩いた。

「その……よろしくお願いします」
ユイはそっと手を差し出した。

「ほらゲンちゃんぼっとしてないで」
ゲンドウは部長の吉田美幸にせっつかれてユイと握手した。

「こちらこそ……よろしく」
ユイの手は白くて細い手ではあったが、とても暖かかった……

「いやぁ めでたいめでたい」
ひたっていたゲンドウの肩を美幸がぱんぱんと叩きながら言った。

「あ、そうそう ゲンちゃん ユイちゃんがチミの作品集見たいそうだから、
見せてあげてよ ケチケチせずにさ」

「未発表分ですか? まだ推敲終わって無いのもありますし……」

「ここは私の言う事聞きなさい」
美幸はゲンドウの耳元で囁いた。

「は、はぁ」 ゲンドウは美幸の意図が見えなかったが、
ユイに自分を知って貰う……そして理解して貰う為には作品を読んで貰う事が
一番だと悟り、腹をくくった。

「ユイちゃんオッケーだってさ」

「わぁ 嬉しいです」 ユイは満面に笑みを浮かべて言った。

「どうせアパートに置いてるんでしょ 今日にでもユイちゃんに貸してあげなよ」
美幸はユイやゲンドウには見えないように、にんまりと笑って言った

「お願い出来ますか? 六分儀先輩」
ユイは未発表作品が読めるとあって瞳をキラキラさせていた。

ゲンドウはユイの訴えかけるような瞳を見て心が揺れていた。




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第3話 終わり

第4話 に続く!


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