シンジとレイが漂流してから、二年の時が流れた。
「レイ・・行って来るよ」
シンジはモリを持って小屋を出た。
「行ってらっしゃい・・ほら、ルミちゃん、パパに挨拶は?」
レイが幼児の手を持って、手を降らせた。
シンジは満面の笑みを浮かべて、レイと、娘のルミに手を振った。
「もう二年も経つのか・・」シンジは浜に向かって歩きながら呟いた。
「しかし、この年で子供を持つ事になるなんて・・」シンジは頭をかいた。
そう、台風が島を訪れた二年前のあの日・・
そして、産れたルミを二人は可愛がった。
事実上、二人は夫婦のような物であった。
16才にして、16才の若妻と1才半の子供を持ってしまった、シンジの表情は明るかった。
「けど・・あれから二年・・僕たちは死んだと思われてるのかな・・」
「ルミ・・今日は元気そうだったな・・」
だが、悩みは尽きないようでもあった。
事実、娘のルミは、事実上の近親交配で産れた子供なので、先天的に身体が弱かった。
「病院にさえ連れて行ければ・・」
シンジは見渡すばかりの、水平線を見回した。
1時間後
シンジは魚を持って、小屋に向かった。
ビエェェェエ ビェェエエ
娘のルミの泣き声だった。
シンジは思わず魚の入った袋を取り落として、小屋に走った。
「レイ!」シンジは妻である、レイに声をかけた。
「あなた・・また発作が・・」
これまで、週に二、三回だった発作も、最近では、毎日のようにおきていた。
発作の度に、体力が失われて行くのは、誰の目にも明らかだった。
「もう落ち着いたわ・・」
「そうか・・」シンジは、レイの腕の中で寝入ったルミの頭を撫でた。
シンジは引き返して、魚の入った袋を拾って、小屋に戻った。
昼食後・・
二人は、小屋の中で話をしていた。
「ルミの様子は?」
「今は寝てるわ・」
「例の計画・・実行に移すのは早めた方がいいかな・・」
「そうね・・」
「じゃ、今から行って来るよ」
「あなた・・」
「何?」
「無理・・しないでね」
「ああ」
シンジは小屋を出て、東の海岸に向かった。
「8割方は完成か・・」
シンジは漂着した木材で、大き目の筏を作っていた。
二年間かけて、こつこつと作っていたのだ。
肝心な、帆を作るのに、苦労したのだ。
漂着物に布は無かったので、レイがヤシの実の繊維を使って布の代用品を作ってくれたのだが、一日に作れる量は知れているので、この三角帆が完成したのは、先週の事であった。
そして日の暮れる中、シンジは疲れた身体を引きずるように、小屋に向かって歩いて行った。
「帰ったよ・・レイ・・ルミ」
シンジが小屋に入ると、娘のルミが今にも、立ち上がろうとしている所だった。
身体の弱いルミは、一歳半にしてようやく、己の力で、足をふんばって立ち上がろうとしていた。
「ルミ・・がんばれ!」
「もうちょっとよ!」
ようやく、立つ事を覚えたルミは、シンジの足元まで歩いて来た。
「よし、偉いぞ!ルミ」シンジはルミを抱き上げた。
夜半
シンジとレイは身を寄せ合って寝ていた。
先程までの情事の疲れか、二人は良く寝入っていた。
その時、目を覚ましたルミが起き上がり、波の音に惹かれるがように、拙い足取りで、小屋を出た。
真っ暗な島で、空の星だけが、島を照らしていた。
ルミは一人で初めて見る夜空に感動し、東に見えている、半月を追いかけた。
疲れたのか、這いながらも、東に向かって砂浜を這い続けた。
ザザーン ザーン
波の音が高まっていくものの、ルミはいつも聞こえるその音の正体を求めて、その音に向かって這って行った。
その時・・
シンジは夢を見ていた。
ドクン
目の前に蒼い何かがゆらいで、母、ユイのイメージが浮かんだ。
かあさん・・
シンジは夢の中、島の中央部に立っていた。
ユイは何かを伝えるかのように、手を動かし、東の方角を指差した。
がばっ
シンジは目を覚ました。
「母さんの夢・・何年ぶりだろう・・」
シンジは汗を拭った。
そして、いつもルミが寝ている籠を覗いた。
「ルミ!」
シンジは何かに導かれるかのように、東の砂浜に向かって、走り続けた。
星空の元、波打ち際で、波に向かって這っていく、ルミに気づき、シンジは力の限り走った。
波がルミに触れる直前!
シンジはルミを抱き上げていた。
ザーン
シンジの素足に、波がかかり、そして引いていった。
「ルミ・・」シンジは嬉しそうにシンジにしがみつくルミを見ていた。
「ん?」
ルミが東の空を指差していた。
「ルミ、何か見えるのかい?」シンジは目を凝らして、東の水平線を見つめた。
「あれは・・船だ」
ランプが点滅しながら、航行する大きい船が東の水平線の彼方に見えた。
「二年間・・船なんて通った事無いのに」
その船は北東に向かっているようだった。
「北東・・そっちに向かえばいいのか・・」
シンジはルミを抱いて、小屋に向かって歩いていった。
シンジが小屋に入ると、シンジとルミがいないのに、気づいたレイが呆然としていた。
「あなた!」
「ルミが一人で、東の砂浜に歩いて行ってたんだ・・」
「僕は夢を見たんだ。母さんが東の方角を指差す夢を・・」
「そこで、見たんだ・・暗闇の中、東の彼方に大きい船が、北東に向かって進んで行くのが・・」
「じゃ・・」
「うん・・今度通る時に、漕ぎ出せば、助けてもらえるかもしれないね・・」
二人は眠りについた。
そして、次の晩
二人は昨日とほぼ同じ時間に東の砂浜に来ていた。
小一時間ほど待ったが、その船は現れなかった。
そして、次の晩
二人は、唯一の希望である、その船を待った。
「あれだ!」シンジは目を細めて、東の水平線から、現れた船を見付けた。
「よし、レイ!漕ぎ出そう!」
二人は筏に乗り、手製のオールを漕いだ。
船から見付けてもらいやすくする為、ヤシの油を煮詰めた物を、手製のカンテラのような物に入れ、火を付けていた。
10分程、漕ぐと、水平線の彼方の船がだんだん大きくなってきた。
「僕が漕ぐから、レイはカンテラを!」
シンジは両手でオールをこぎ、レイはカンテラに板をかざして、点滅させた。
10分ほど、こいで、いると、船からサーチライトが浴びせられた。
「おーい! おーい!」シンジはオールを置いて、立ち上がって手を振った。
船は向きを変え、シンジ達の方に向かって進んで着た。
「レイ・・」
「あなた・・」
大きい船から、ランチが降ろされ、シンジ達の筏に向かって、進んで来た。
数分後・・シンジとレイとルミはその大きい船に収容された。
船員はアメリカ人だったが、シンジは必死で、拙い英語を話しながら、ルミを指差し、治療が必要である事を伝えた。
シンジ達は、船員に連れれれて、船医の元に連れられて行った。
恰幅のいい船医は、シンジが手渡した、ルミの診察を始めた。
そして、英語で、部屋の奥に声をかけた。
すると奥から、白衣を来て、手にはカルテを持った女性が歩いて来た。
シンジはルミの方に視線を注いでいたので、その女性に注目していなかった。
「シンジ!」
シンジは日本語で自分の名前を呼ばれたので驚いた。
「あんた、シンジじゃ無い!」白衣を着た、女性は、2年前にはぐれた、アスカであった。
「アスカ!無事だったんだね」
「シンジ・・レイ・・」アスカは目に涙を溜めて、二人に近づいて来た。
「どうしていたのよ・・探したのよ!」アスカは泣きながら、シンジに抱き着いた。
レイは複雑そうに、シンジとアスカを見ていた。
「ところで、誰か病気でもしたの?」泣き止んだアスカがシンジに聞いた。
「うん・・」シンジは診察を受けているルミを指差した。
「あら、可愛い子ね・・どうしたの?」アスカはルミに微笑んだ。
「僕たちの・・子供なんだ・・」シンジは顔を真っ赤にして言った。
「ええぇぇ〜シンジとファーストのぉお?」
「まだ16才でしょうが!」アスカはシンジに詰め寄った。
「・・・・」シンジは返答に窮していた。
「ごめんなさい・・・なたの気持ちも知っていたけど・・」
綾波がアスカに頭を下げた。
「・・・・あんた達も苦労したんだよね・・生きていてくれただけでも嬉しいわよ」
アスカが綾波を抱きしめた。
「アスカさん・・」
その時、船医がアスカに声をかけた。
そして、アスカと船医は話していた。
「シンジ・・レイ・・良く聞いて」
「うん」
「この子・・かなり衰弱しているわ・・抗生物質は打ったそうなんだけど・・もっと大きな病院に連れて行って、遺伝子治療したら治るそうなのよ。この船はアメリカに向かっているわ・・NERVに行けば十分な治療出来るでしょう・・・。私も、ちょうど、この航海で船を降りて、NERVに招かれてるの・・」
「じゃ・・」
「そう・・NERVに辿り着くまで、この子の生命力が持てば助かるわ・・」
「アスカ・・お願いするよ・・」
レイも頭を下げていた。
「治療も終わったみたいだし、あなた達の部屋は用意してるそうよ」
シンジとレイはアスカに連れられて、船室に向かった。
シンジはシャワーの栓を捻った。
シャーー
暖かい湯が飛び出して来た。
バスタブには、すでに誰かが湯を張ってくれていた。
「レイ・・風呂に入ろう・・」
シンジとレイは風呂の中で、交互に、お互いの背中を流していた。
「二年だもんな・・」シンジはレイの背中を流しながら呟いた。
「あなた・・」
二人は身体を洗い終えた。
「狭いな・・」
シンジは先にバスタブに入って横になった。
「レイ・・おいで・・」
レイもバスタブに入り、シンジに抱き着いた。
「あったかいね・・」
二人は二年ぶりの風呂を堪能していた。
「レイ・・」
だが、それだけで済みそうも無かった。
わっかいんだから
その後、シンジとレイは退院したルミを連れ、NERVの用意したマンションで、籍を入れた二人と一人は新婚生活を始めたそうだ。
この、二人と一人に幸、多からん事を・・
完
ご愛読ありがとうございました。
これをもって、南の島シリーズを終わります。