裏庭歌劇団
「あれ、碇さん 今日の打ち合わせに出てくるんじゃ無かったっけ」
「おかしいなぁ 休暇はもう終わってる筈なのに」
舞台の設営をしている裏庭歌劇団の裏方がいつも打ち合わせがある日は、
始まる時間よりかなり早くシンジが来て、しかも裏方にたい焼きをご馳走していた為、
異変はシンジの休暇が終わった翌々日にはすでに知れ渡っていた。
「まさか惣流さんに続いて碇さんまで失踪したんじゃ……」
「何で碇さんが失踪しないといけないんだよ 舞台もうまくいってるし、
今度製薬会社のCMにも出るぐらい引っ張りだこなのに」
「そうだよなぁ……」
その後様々な流説が関係者に流れた。
幸いシンジが絶対いないといけない仕事は一週間後ではあった。
打ち合わせにしても強要されてのものではなくスタッフと打ち解ける為、
シンジが一人でやっている事なのである。
スタッフを敵に回す→わざと古い台本を手渡される→とても困り恥をかく
というような図式が昔からあり、スタッフと打ち解けておく事はプラスになりこそすれ、
マイナスにならないのであった。 たい焼きの件などはユイの入れ知恵であった。
「まさか、あの人を探して
三千里
るの?」
自ら姿を消したアスカは無条件でシンジに近づく権利を失い、
自分のみがチャンスがあると思っていたレイは驚愕していた。
綾波レイがシンジ失踪の噂を三日遅れでようやく耳にした時には、
誰にも知られないまま洞木ヒカリまでもがその姿を消していた。
裏庭歌劇団
作:尾崎貞夫
第9話【復活のアスカ】
タームは碇シンジ失踪? の話を聞き、一人碇家を訪れていた。
「息子の事でターム先生にもご迷惑をかけたようですな」
ゲンドウは紅茶にブランデーをたらしながら上目づかいに話しかけた。
「いえ、迷惑という程の事でも無いんですが……舞台まで日もありますし」
タームはシンジとアスカの引き離し策のせいで二人とも姿を消したのでは無いかと
気が気では無かったのだが、ゲンドウの前で失態は見せられなかった
「ところで、奥さんは今日はお留守ですか?」
タームは今日はユイの入れてくれた紅茶ではなく住み込みのメイドが入れてくれた紅茶
を飲みながら話しかけた。
「実家の方で野暮用がありましてね 昨日から出かけております。」
ゲンドウは全て知っているぞとでも言いたそうな目でタームを観ていた。
「確かに……二人とも失ったのでは私の進退問題にも関ります……
ですが、それより私は彼らの才能を惜しみます……帰って来て欲しいのです」
タームはゲンドウが全て知っている事を前提の上で頭を下げて言った。
「まぁまぁ……それより、二人が帰って来た時の為に……気持ちよく仕事が出来るよう
準備をしておいて下さい。 そうする必要があなたにはある……」
ゲンドウは指を組みながら言った。
二人……アスカ君も帰って来るのでしょうか その言葉をタームは飲み込んだ。
そして四日後 シンジはアスカを伴って裏庭歌劇団事務所に顔を出した。
連絡を受けて飛んで来たタームと裏庭歌劇団の理事がシンジの弁を聞いていた。
「ですから、彼女はみずからの療養の為、やむなく一人で行った訳ですので、
是非 寛大な処置をお願いします 」
聞いて貰えないのならアスカと共に別の劇団に移るぞ とでも言えばよいのだが、
シンジは真摯にこんこんと理事に語りかけていた。
「アスカ君……君は今でも舞台を続けたいんだね?」
タームはシンジの話が一区切りついた所でアスカに話しかけた。
「はい! 一時も舞台の事を考えない日はありませんでした」
アスカはシンジが来てからと言うもの旺盛な食欲を見せ、
二週間はかかると思われた体力の回復を一週間で終わらせてみせたのであった。
未だ頬のあたりがほっそりとはしているが、舞台に立つ頃は治るであろう。
「本人がやると言っているんです やらせてあげてはどうですかね 理事の方々」
タームもこれが認められないならシンジとアスカと共に新劇団を発足させるぞ
ぐらいの事を暗に秘めて語りかけた。
この三人を失う事は得策では無いと悟った理事の面々は要求を丸のみした。
そして一ヶ月が過ぎ、アスカが劇団員の為の稽古場に姿を現した。
「惣流アスカです 今日から稽古に参加させて貰います」
アスカは稽古に来ていた劇団員の前で一言挨拶し、稽古場の隅で柔軟体操を始めた。
すでにアスカが結核の為療養していた旨を劇団員の半数は知っていた為、
同情の視線とようやく同じ所まで降りて来たアスカをやっかむ視線とがアスカを貫いていた
復帰したからといって普通すぐ役がつくものでは無い……
だが、シンジとタームと言う後ろ楯がいるに等しいアスカは
他の公演の予定が立っていない劇団員とは差がありすぎた。
だが、誰もが視線を這わせる事はあっても近づこうとはしない中、
綾波レイがアスカの前につかつかと歩いていった。
「療養中も舞台の事忘れなかった って理事に言った割には身体固いわね」
「久しぶりね レイ」 アスカは柔軟を続けながら答えた。
「戻って来たのは偉いけど……そうね偉いと言ってあげるわ……
私なら自分の芝居の全てを否定されて役を失い、しまいには結核にまでかかって、
それでもここに戻ってこれたとは思わないわ」
ほめ殺しとでも形容したらいいのか、レイは辛辣な言葉を無遠慮に投げかけた。
「そう思ってるのなら、もう少しいたわってくれてもいいんじゃ無い?」
アスカはレイの口撃にもひるまずに余裕の表情で答えた。
「あなた 戻って来たはいいけど、まさか前のような役につけると思ってるの?」
シンジの愛を一身に受けているアスカの余裕めいた表情に、ついにレイが切れた
「私ね……過去の事は捨てたの…… 一新人のつもりでやりなおす事にしたの
だから、お手柔らかにね 綾波さん」
レイは何と答えていいのか窮してすごすごと引き下がった。
その日の夜 レイが練習を終えてシャワーを浴び 外出着に着替えて門を出た所で
レイはシンジの後ろ姿を見つけた。
「碇君って……本当に酷い人ね……」
レイは感情を爆発させ、涙をぼろぼろ流しながらシンジをなじった。
「すまないね 君にこんなこと頼めた義理じゃ無いのに……
けど、おかげでアスカは覇気を取り戻してくれたよ。」
「本当に……悪いと思っているの? 私……」
涙を拭いもせず、鼻声でレイは言葉を続けた。
「すまない だけど今のアスカにはライバルが必要なんだよ」
シンジは自らを慕うレイを利用してまでアスカ復活にかけたのであった。
「答えになって無い……それ全然答えになって無いじゃない……
どうして私じゃ駄目なの? あの人とどこが違うの?」
レイが復帰したアスカに手厳しく挑んだのはこの為であった。
シンジは泣きじゃくるレイにハンカチをそっと差し出した。
少ししてようやく落ち着いたレイは再び話しはじめた
「けど、いいの? あの人……潰れてしまうかも知れないわよ」
レイは最後までアスカの名を口にはしなかった。
ささやかな抵抗なのか、それとも……
「僕の手の届くところにさえいてくれたら……大丈夫だよ」
シンジはレイを泣かせておきながらも迷いの無い目でにこりと笑って言った。
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またレイが身を引くのか?
よくやったな・・シンジ
問題無い・・・
おまえには失望した
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どうもありがとうございました!
第9話 終わり
第10話
に続く!
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