「それでは、本日はここまで」
丁度区切りのいい所まで進んでいたので、加藤はチョークを置いた。
そして教室がざわざわし始めた頃、教室の扉が開かれた。
夏季公演に出演する、碇シンジ 綾波レイの二人と演出家の尾崎の登場であった。
裏庭歌劇団
作:尾崎貞夫
第2話【紫の感想メール】
「加藤先生 打ち合わせは終わりましたので、この二名をお返しします。」
尾崎は暑いのか刷り上がったばかりの台本をうちわ替わりに仰ぎながら言った。
「それじゃ授業に戻ります」 シンジは二人に頭を下げ、レイと共に自分の席に向かった
「ご苦労様です どうですかな? 夏公演のメンバーは決定しましたか?」
加藤は廊下に出て教室の扉を締めながら答えた。
「ええ 今回はかなり奇抜な話ですから選出には苦労しました。」
僅かに扉の向こうから漏れて来る話し声をアスカは複雑そうな表情を浮かべて聞いていた。
「やあアスカ 夏公演も君と共演出来ると思ってたんだけど、残念だったね」
聞き耳をたてているアスカに気づいたシンジは気さくに話しかけた。
「今の私にそういう事言う訳? 嫌味な事言うようになったものね……
一年生の頃は、練習で舞台に上がる度、神経性の下痢に悩まされてたのにねぇ……」
「うっ……アスカには感謝してるよ……エヴァの公演の間中世話になったしね……」
忘れたい過去を持ち出されてシンジは少し表情を硬くしたが、
それがアスカのいつものコミュニケーションなんだと観念した。
シンジは口を挟むのを諦め、隣の席の生徒に出席出来なかった一時間目の授業の
ノートを貸して貰い写し初めていた。
「アスカが夏公演に出られないっていじけるなんて甘いわよ 私たち普通の生徒は
卒業したって、そんないい役を貰える保証なんて無いんですからね」
ヒカリがアスカの肩をぽんぽんと叩きながら言った。
「いい役ねぇ……確かにいい役だわなぁ 演技の必要無いもんなぁ……
地のままでやって大好評ってか? 他の役の事考えると頭痛く無いか?」
実は幼い時から児童劇団に所属し、子役として活躍した事もある、
鈴原トウジがあくびを噛み殺しながら呟いた。
「あんただって似たようなものでしょ 読書好きなさわやかな美少年の役がやれて?」
アスカはフラストレーションを晴らす為の最適な目標が現れた事に半ば驚喜した。
「うぐっ…… これは俺の個性や 放っといてんか」
二時間目の授業の始まりを告げる鐘の音が鳴りはじめた事もあり、
アスカが1ポイント先取して前哨戦は終わりを告げた。
「だけど……確かに他の役のお呼びがかからないのよね……」
アスカは溜め息を漏らした。
昼休み
アスカは寮の食堂で昼食を摂る為、ヒカリ達と談笑しながら寮の門をくぐった。
ほぼ8割が寮生だが地元の人間は実家から通う事も出来るのである。
「惣流さん また来てますよ」 寮母さんがアスカの姿を認めて声をかけて来た.
[えっ 本当ですか?」
アスカはそれまでの沈んだ表情から一転して明るく屈託の無い笑顔を寮母に向けた.
「いつもすみません」 アスカは寮母からおよそ30通の封筒を手渡された。
「さすが売れっ子よね 憎いね この」
ヒカリは笑いながらアスカを肘でつついた。
アスカは昼食のカレーうどんセットを食べながら届いた感想メールを読んでいた。
「やっぱり来てる…… 紫の感想メールの方だ」
紫色の薔薇の意匠が施された便箋をアスカは慎重な手つきで開けた。
・
どんな感想メールや
・
”先日公演された窓の舞台を拝見させて頂きました。
いつもながらの自然な演技がとても良かったです。
夏季公演には出られないとの事でとても残念です。
暑くなる盛りですので、身体に気をつけて下さい。”
「この人だけよ 私を本当にわかってくれるのは……」
アスカはうっとりとした目で感想メールを読み終えた。
「ふふ まるで恋人からの恋文みたいね」
ヒカリが汁が飛び散るのを防ぐ為、ハンカチを首に巻いた姿でカレーうどんに
箸を伸ばしながら話しかけた。
「けど……私でさえ今日 夏季公演に選出されて無い事知ったのに、
この人はどうしてその事を知っているのかしら……」
「どういう事なの? 見せて貰っていい?」 ヒカリは興味深そうに覗きこんだ。
「うん……いいよ」
「どれどれ? 私一度見てみたかったのよ 噂の紫の感想メールをねっ」
ヒカリは手早に文面に目を通した。
「普通の人が知ってる筈無い事知ってるのよね」
「確かにそうねぇ……案外、紫の感想メールの主は 裏庭歌劇団の内部にいるかもよ」
「えぇ〜 そうかなぁ…… けど、そうとでも考えないとおかしいよね……」
アスカは頭の中で紫の感想メールの送り主の姿を思い浮かべた。
「ところで、来週からまたタームさん演出のファーストインパクトの公演よね」
「明日から練習なのよ……またノートお願い出来る?」
「私の出番が無い時はね……まぁ、最悪の場合は一枚50円でコピーさせてくれる人
がいるから何とかなるしね……けど学生の内から舞台に出るのはいいけど、
基本の練習がおざなりになるのが恐いのよね アスカみたいに天才じゃ無いから」
「惣流君はいるかね?」
ほぼ食事が終わりかけた頃、寮の食堂に一人の男性が現れた。
「あ、はい」 アスカは呼ばれて慌てて立ち上がった。
「あ、ターム先生 何でしょうか?」
「次回の公演での衣装合わせだが、君の背が伸びてるので作りなおす必要があるらしい
だから今日の授業が終わったら劇団の雑務課に顔を出すように。」
「はい わかりました。 (わざわざ先生が来て言う程の事でも無いのに……)」
「火薬を使う少し危険なスタントもある。 夏バテしないように睡眠をよくとっておけ」
タームはアスカに優しそうな視線を一瞬向けて食堂を立ち去った。
「明日から練習か…… 負けられないわねっ」
だが、アスカはその事に気づいてはいなかった。
この作品はフィクションです。 実在する人物・団体・サイトとは何の関係もありません
御名前
Home Page
E-MAIL
作品名
ご感想
今のご気分は?(選んで下さい)
お約束が過ぎるな
フォントを紫にしようか?
よくやったな・・シンジ
問題無い・・・
おまえには失望した
ここに、何か一言書いて下さいね(^^;
内容確認画面を出さないで送信する
どうもありがとうございました!
第2話 終わり
第3話
に続く!
[第3話]へ
[もどる]