「ごめん……弁償するよ 下の階に眼鏡屋あったと思うから」
シンジはマナの手を引いて階下に向かった。
そして階段を降りた所で、買い物に来たアスカとばったり出会ってしまった。
「アスカ……何でここに」
「今日はお昼で終わったから覗きに来たのよ って何でその女と腕組んで歩いてるの?」
「は? 腕?」
ふとシンジが横を見ると、コンタクトが無いので周りの状況が分からないマナが
恋人のようにシンジの腕にしがみついていた。




第13話 「疑問」


小雨が一時間程前から降り続いていた

「ふぅ……」
自然と溜め息が出るのは昼食を取る事が出来なかったからだろうか
指輪を買ったあと、いくばくかの現金は残っていたが、霧島マナのコンタクトレンズを弁償した
後殆ど金が残らなかったからと、アスカが誤解したままビンタをくれて去って行った為、
食欲もあまり無くなった為だ。 シンジは溜め息をもう一度ついて自分の部屋のロックを解除した。
シンジは肩や頭についた水滴を手で払ってから部屋に入った。

僅かにアスカの髪の臭いが残留してはいたが、アスカはシンジの部屋にはいなかった。
「ま、当然と言えば当然か……」 シンジは懐に入れていた指輪のケースを弄んで言った。

シンジの部屋には金庫などといった気のきいたものは無いので、指輪の保管場所に少し悩んだ
あげく、銀行の通帳などと同じ置き場……冬なので最低限まで温度を抑えた冷凍庫に入れる事にした。

中にアイスクリーム一つ入って無い事はアスカも知っているので開けないだろうと思っての行為であった。

「これで沈静化すればいいんだが……」
アスカがシンジの頬にびんたをして去って行ってからの事を思い出しながらベッドに腰をかけた。



「あらあら、彼女勘違いしたまま行っちゃったのね……私としてはそこまでやるつもりじゃ無かったんだけど」
霧島マナは眼鏡屋でコンタクトレンズが出来るまでの間 シンジとは少し離れたソファーに座っていた。

「NERVも今後は調査に入るらしいし、これは元同級生としての忠告だけど……もう辞めておいた
方がいいと思うよ それにスレッドを立てた人の情報は記録されてるらしいから」
ホントに1 はバカだけどよ(藁

「私には何の事だかよくわからないけど……承っておくわ……」

シンジは視線をマナから外さず、またマナもその視線に応えており、眼鏡屋の一角には緊張感が漂っていた。

「霧島様 お待たせ致しました」 店員の呼びかけで二人の緊張状態は解け、マナは店員に近づいて行った。

「御会計の方が1万7千円になります?」
店員のその声にマナは悪いわね? と言いたげに肩を持ち上げてシンジの方を向いた。

シンジは黙って立ち上がり、会計を済ませた。

「私、 ここでセットして行くから、もういいわよ」
マナはさっそくコンタクトレンズの装着を始めながら言った。

「僕の事を恨むのはいい……だけど僕の周りの人を傷つけたら……許さない」
シンジは自動ドアの前で立ち止まり、振り返りもせずに言い放った。

「あなたにぶたれた……あの時は私が悪かったと思ってるわ……
私は馬鹿じゃ無いから同じ事はもうしないわよ……」

シンジはその答えに安心し、自動ドアに向けて一歩を踏み出した。

「あのね……あの頃……何故あそこまであなたに絡んだのか知ってる?」
もう片足も自動ドアに乗ろうかと言う時、先程とは比べ物にならない程のトーンの低さでマナが呟いた。

「父親の仇……それだけじゃ無いのか?」
シンジは他の点でも恨みを買っていたのかと思い複雑な表情で後ろを振り向いた。

「あなたが……エヴァンゲリオンのパイロットだって知るまでは……あなたの事……好きだったの
……いや……知ってからでも好きな事には違い無かったの……でも……あなたは父さんの仇……」 コンタクトレンズを装着した後も、目尻に手を当てたままマナは長らく封印していた自らの思いを解き放った。
マナは堪える事が出来ず、涙を一筋流した。

「やっぱり安物は駄目ね……」 マナはコンタクトレンズがずれた事を涙を流した事の言い訳に利用していた

「あの頃……僕の意識は外に向いていなかった……その事に気づいてすらいなかったよ」

「おりしもバレンタインデーが近づいて来てて……あなたに告白しようとした時に……あなたがエヴァのパイロットで、間接的に父の死に関与しただろう事を知って……私……ごめんなさい」

「後で聞いたんだけど……君の父さん 霧島一尉は チルドレンである僕の始末をしに来ていて、
僕を射殺する寸前に、当時の僕の保護者だった葛城ミサト三佐に撃ち殺されたそうだよ……」

マナはシンジの言葉にハッとしたかのように顔を上げた。

「僕はもう過去の事で誰も恨みたく無い……忘れたいんだ……
それより僕らにはする事がある 荒廃したこの第三新東京市を……いや、日本を復興させる事だ
それは残された僕らに課せられた義務でもあり、権利でもあると僕は思っている……」

「教えてくれて……ありがとう」 すでに涙を抑える事が出来なくなっていたマナは声を掠らせながら言った。

シンジは無言で眼鏡屋を立ち去った。


シンジは回想に耽ったまま眠りに落ちていた。

そして、30分程経ったであろうか、シンジの部屋のドアノブが回転し、アスカが顔を覗かせた。
「シンジ……いる?」 返事を待たずにアスカは手にしていた傘を畳んで玄関先に立てかけた。

「その……ごめんね?」 アスカはシンジが起きていると思っていたのか、謝りながら居間に入って来た。

「何だ 寝てるの? せっかくコンビニで 昔食べたスイカバーが復刻されてたから買って来たのに……」 12月にアイスを食べると言うのには無理があるが、仲直りのアイテムとしてアスカは利用
する事にしたようだ。

「一緒に食べようと思ってたのに……溶けちゃうから冷凍庫に入れておこうかな」
アスカは立ち上がり、キッチンまで歩いて行った。

「確か空だったから、入れておけるわよね」 アスカは冷凍庫のドアを開きながら言った。

「空いてる空いてる ん?」 冷凍庫にスイカバーを二つ放り込んだ時、
見慣れないものが冷凍庫に鎮座しているのにアスカは気づいた。

四角いケースにアスカは首を傾げた。
「こんな入れ物に入ったアイスクリームあるのかしら……まるで宝石屋のケースみたいね……」
アスカは少しだけケースを開きながら呟いた。

冷凍庫の冷気に晒されてケースの中のダイヤモンドの指輪が少し曇るのをアスカは
身動き一つせずに見つめていた。

「指輪……今日デパートにいたのはこれを買う為?」 アスカは頬を上気させて呟いた。

そして、氷柱が刺さるかのように一つの思いがアスカの心を突き刺した。
「これ、私の為なの? それとも、あの女に渡すの?」

アスカが逡巡している事など気づきもせずにシンジは深い眠りの中にいた。




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どうもありがとうございました!


第13話 終わり

最終話 に続く!


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