この事はこのまま忘却の彼方に忘れ去られるかと思っていたが、
12月に入ってすぐに二人の目の前に大きな壁として立ち塞がる事となった。
大学から二人が帰ると、家の前にマヤがプリントアウトした用紙を手に突っ立っていたのだ。
マヤは無言で数十枚に渡る用紙を二人に手渡して、
「気にしない方がいいわよ」と言って去っていった。
その用紙には、匿名が前提の巨大な掲示板に最近出来たらしい、あの事件のA級戦犯を裁く
といったスレッドのその時点までの全ての書き込みが印刷されていたのだ。
NERVの主要人物は勿論、チルドレン……特にサードインパクトを起こした張本人として、
碇シンジの名が記されており、現在NERV第一大学に在学中である事も記されていた。
第12話 「指輪」
「ごめん……ちょっと一人にして貰えるかな」 二人で一通りログに眼を通しおえた時、
シンジはすっかり冷めてしまったミルクティーを飲み干して言った。
「うん……あまり 気にしないでね 気持ちは分かるけど」
アスカはコタツから足を抜き出しながら言った。
「じゃ……おやすみ」 このままシンジを置いて置く事に一抹の不安を感じたが、
アスカはシンジを信頼して部屋を出ていった。
シンジは何とか心を落ち着けながら冷静にもう一度ログを読みはじめた。
「霧島マナ……ここまでするのか……」
この騒動の火付け人の名は無論伏せられていたが、同じ高校だったマナしか知りえない
情報がふんだんに含まれている為特定する事が出来ていた。 証拠能力としては低い。
彼女と思われる書き込みは、議論が沈静化しかける度に煽りと言う形で絶好のネタを提供
し、議論を常に活発にしようと目論んでいるのがシンジには分かった。
「人間の敵は所詮人間……か」 幸い あの後すぐにドイツに帰国していた為かアスカ
に関する記述は殆ど無いのが救いではあった。
だが、巨大化した綾波に関しては目撃例が多いどころか、溶ける寸前に多くの人が見ている
為、悪意のある書き込みが多数見受けられた。
「明日……NERVに寄って相談するか……」
シンジは寝間着に着替えて床に入り呟いた。
少し腕を伸ばして照明を落とし、久々に孤独感を味わったが、
壁一つ向こうにはアスカがいる事を思い出しシンジは眠りについた。
「碇司令の頃だったら、仮処分申請でもして削除させたかも知れないけど、
今のNERVは昔程の権力が無いから、根本的な対策は無理なのよね……」
午前中二時間だけ授業を受けたシンジはNERVにてマヤと相談していた。
「これ以上エスカレートして僕やアスカの住所を晒されるんじゃ無いかと……」
ただ住んでるだけならそれほど問題にならないかも知れないが教師と生徒の間柄で
半同棲している事が暴かれでもしたらアスカが職を失いかねない。
シンジはその一点のみを心配していた。
「一応掲示板の管理者とは話が付いてるわ 住所公開とかしたら即刻
あぼーん
削除してくれるらしいわ」
・
賄賂としてうまい棒でも送ったのか?
・
「そうですか…… 少し安心しました」
「それより……やっぱりアスカちゃんに取られちゃったか…… アスカちゃんとの事が整理付いて
から返事するって言われて まぁそうなるんじゃ無いかとは思ってたけど……」
「すみません……」 実は二ヶ月程前からマヤの意思表示を受けていたシンジであった。
「それより明後日の4日はアスカちゃんの誕生日よね? アスカちゃんも20歳か……
シンジ君は来年の六月だから、アスカちゃんが先に成人するのよね」
少々重苦しい雰囲気を変えたのはマヤの一言であった。
「え、四日ですか? アスカその事ちっとも言わないから、知りませんでした。」
少し俯いていたシンジは慌てて顔を上げた。
「あらあら駄目よぉ そんな大事な日はちゃんと覚えておいてあげないと。 」
「そうですね……教えて下さってありがとうございます」
その時、マヤの机の電話が鳴った。
「え、11時からの会議? ごめんなさい すぐ行くわ」
「そういう訳だから、住所の事は安心してていいわよ それじゃ失礼するわね」
マヤは書類の詰ったバインダーを手に慌てて駆け出して行った。
「バイト代の残りは振り込まれてたけど、心細いな……」
シンジは帰りに銀行に寄る事を決意した。
「幸い時間もあるし、今日買っておくかな」 シンジは先日アスカと赴いたデパートに足を運んだ。
「んー鞄とかはアスカ沢山持ってそうだし、ブランド品じゃ無いと贈り辛いな……」
「香水とかアスカあまり付けないよなぁ 化粧品付けなくても素で肌奇麗だし……」
「服はこの間大量に買ったばかりだしなぁ……ん?」
ショーウインドウを覗いては歩いていたシンジがとあるコーナーを見つけて覗きこんだ。
「指輪か…… ファッションリングとかいくらぐらいするのかな……って指輪!?」
今の状況を打開するきっかけとなるかも知れない考えをシンジは思いついた。
「だけど、まだ学生だし……けど学生結婚なんてザラだよなぁ……結婚かぁ……」
今は周りに脅えながら半同棲生活をしているが、いつまでも周囲にばれない保証など無い……
その事を考えている内に シンジはふらふらと店内に入った。
単なる冷やかしだと思っているのか、店員は二人で小声でおしゃべりをしていた。
「えっと婚約指輪っていくらぐらいするのかな……昔は給料三ヶ月分とか言ってたそうだけど」
シンジはブライダルフェアと書かれたコーナーに展示されている指輪を覗きこんだ。
「げっ」 ネルファのバイト代全額よりかなり多い額がそこには記されていた。
「これは特別に高いんだろうな……他は……」 だが、どれも大差無い値段であった。
「何で婚約指輪と言うとダイヤなんだろうか…… 結婚したら使わなくなるのに……」
世の男性の多くが嘆いたであろう事をシンジも呟いた。
「このデパートにも銀行あったよな……」
シンジはジュエリーショップを出た。
店員達はやはり冷やかしね といった表情でシンジの後ろ姿を見ていた。
「エヴァのパイロット時代の給付金と危険手当や 父さんの遺産には手を付けたく無いなぁ……
って、そういえばこのカードの方に副司令としてのギャラが入ってるって言ってたな」
シンジはNERVの紅いカードを端末に差し込んだ。
副司令の一人に就任してから二ヶ月程度しか働いて無いのに、一番高い指輪を買っても、
少々お釣りが出る程の金額が提示された。
「そういえば給料の話とか全然しなかったな……ま、これなら何の気兼ねも無いな」
シンジは副司令としての二ヶ月分のギャラを全て引き出して先程のショップに向かった。
途中に公衆電話があったので、ヒカリの携帯に電話をかけてアスカの指輪のサイズを聞き出した。
そして店で一番高い婚約指輪を買い、意気揚々と店を出た所で、
隣の店舗の商品を見ていた女性が急に振り返り、シンジとぶつかった。
「すっ すみません!」
「あいたたた 何よぉ」
シンジは倒れた女性に手を差し伸べた 女性はシンジの手を借りて立ち上がり、
薮を睨むかのように眉を顰めて、そして叫んだ
「ってあんたは碇シンジ! 何でいつも私の前に現れるのよ!」
「それはこっちの台詞だ! 逆恨みも甚だしいぞ あんな掲示板に情報流したりして!」
シンジは激怒のあまり一歩踏み出した。
プチっ とプラスティックが割れるような音がしたので、シンジは靴を持ち上げて見た。
「きゃー 私のコンタクトレンズ割ったのね どうやって家まで帰れって言うのよ!」
「ごめん……弁償するよ 下の階に眼鏡屋あったと思うから」
シンジはマナの手を引いて階下に向かった。
そして階段を降りた所で、買い物に来たアスカとばったり出会ってしまった。
「アスカ……何でここに」
「今日はお昼で終わったから覗きに来たのよ って何でその女と腕組んで歩いてるの?」
「は? 腕?」
ふとシンジが横を見ると、コンタクトが無いので周りの状況が分からないマナが
恋人のようにシンジの腕にしがみついていた。
まさに一触即発 さっきまで幸せ度400% だったシンジの明日はどっちだ!?
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どうもありがとうございました!
第12話 終わり
第13話
に続く!
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