「これ……持ってろ」 ネルファがシンジ達のいる土手に近づきはじめた時、
シンジはスーパーの袋をアスカに手渡した。

「何をする気なの? シンジ!」

「多分……君の想像している通りだよ」
シンジはフェンスに足をかけて振り向いて言った。

「シンジ!」 アスカは蒼白な顔でシンジの翻意を促したが、みるみる内にシンジは
フェンスを登り切り、工事現場に飛び降りて行った。




第7話 「暴走」


シンジはフェンスから飛び降りると、ネルファの死角から近づいて行った。
だが、パイロット不在の為、赤外線探知システムが稼働していた為、
シンジと言う新たな標的を見つけたネルファは急停止し、ターンした。
その時、僅かながらもコクピットに繋ぎ止められていたパイロットが転落した。

たいした高さでは無かったものの、失神している状態での落下なので受け身も取れずに
呻いていた。

「警察……いやNERVに連絡しないと」
アスカは今さら間に合わない事を知りながらも、懐から携帯端末を取り出し
NERV本部への直接コールを試みた。


シンジが現れた事で、建造物への直撃コースからは回避出来たものの、
事態は以前悪化を辿っていた。


「あああ……明日には引き渡す予定だったのに……」
現場監督はネルファの暴走による被害で顔を青くして下さい。

「監督 ここも危険です 逃げて下さい!」

「だが、私は最後まで見届ける責任が……」

「なら、そこの土手まで上がりましょう
 ネルファには坂道を自力で上がる事は出来ない筈です」

兵器への利用・犯罪への利用を無くす為、
ネルファの足は坂道踏破が出来るようになっていないのだ。
基本的に移動は専用トラックで行うので、普通の業務には差し障り無い。
だが、足首の関節の関係で後退も出来ない程なので、
ネルファのパイロットはシンクロ能力だけでは勤まらないのが現状だ。
その為の免許制度ではあるのだが……


「そうだな……そうするよ」

逃げるのを躊躇していた数人の作業員と現場監督が土手に向かうと、
アスカがNERVとの連絡を終えた所だった。

「NERVとの連絡は付きました! 特殊作業班が来てくれるそうです」

「君は……」 現場監督は呆然とした表情でアスカを見つめた。


「それより、振り落とされたパイロットを助けないと……どこから上がって来たんですか?」

「まさか、君が助けに行くつもりかね? ネルファに踏みつぶされるぞ!」
現場監督は顔を青くして答えた。

「見ている限りでは、パイロットを補助する為の自律機能が暴走したようです。
その動作アルゴリズムの癖はもう掴めました。 
私ならネルファに気づかれずに、投げ出されたパイロットに近づけます……」

アスカはそこで言葉を切った。

「だけど、パイロットを引きずって来るのに男手が必用って訳だな」
現場監督はアスカの表情からそれを察した。

アスカはただ、頷くだけだった。

「わかった 私がついて行こう」 現場監督は一歩前に出て行った。

こうして、ネルファの暴走を止めるのにシンジ
投げ出されたパイロットの保護にアスカと現場監督が当たる事になった。


「あの、これ持っていて貰えます?」
アスカはシンジに手渡されたスーパーの袋を作業員に手渡した。

「それと、救急車が来たら、ここで待機して貰っていて下さい」
アスカはそれだけを言い残して、現場監督と共に現場に走って行った。


これがゲームならミニゲームが起動する所だねw

坂を降りてプレハブの横から現場に降りたアスカは、
すぐ近くで聞こえるネルファの足音に身を引き締めた。
「アスカ……行くわよ」

その頃、シンジは着々とネルファを資材置き場とフェンスの間に追い込むべく、
自らを囮にしてネルファを誘導していた。
今シンジが歩みを止めれば、ネルファの足に踏みつぶされる事は膝と足首の関節上出来ない
が、足のつま先にぶつかられるだけで、車に跳ねられた事と同じ結果になりうるのだ。
本来、リミッターがついているので、ネルファの走向速度は30キロといった所だが、
自律機能が暴走している今、リミッターは作動しておらず、50キロ近くにまで達していた。


「シンジが隅に追い込もうとしてるみたいだから、私たちが感知されなかったら
何とか助け出す事が出来るんですけど……ネルファの探知機ってどんなレベルです?」
アスカはプレハブの横に隠れたまま、同じく隠れている現場監督に問いかけた。

「工事中のあの騒音の中で、煙草入れを落としたのにシンジ君が気づいてたぐらいだから
聴音だけでもかなりのものだし、夜作業してて不審者が近づくのも離れていても分かった
そうだから、赤外線探知能力もそれなりにあると思う……」


「今はシンジを追いかけてるけど……私たちが近づけば私たちを追尾するかも……」
アスカは頭の中で必死になって計算していた。

ネルファを欺く為にはどうすればいいのか……


その時、アスカの眼は何かを見つけた途端輝き始めた。

「監督さん……何より人命優先ですよね?」
アスカは思い詰めた表情で現場監督に問いかけた。

「……無論だ。」

その答えを聞くや否や、アスカはプレハブ製の小屋に入り、
昔ながらのストーブに駆け寄り、取っ手を手に取った。

「な、何をする気かね……」 現場監督はアスカの奇矯な行いに驚いていた。

「赤外線探知ミサイル から逃れるにはどうしたらいいか……わかりますよね?」
アスカは慎重に片手でストーブを持ち上げて言った。

「なる程、自分達の体温より高いものを置いておけばいい訳か」

「そうです それと、これもお借りしますよ」
事務室のテーブルの上に 現場監督の物と思われるラジオが置かれていた。


アスカは右手にストーブの取っ手を持ち、左手でラジオを抱えた。

「そんな重いもの……私がやるよ」
現場監督はアスカに近づいて行き、受け取ろうとした。

「いえ、監督さんには振り落とされたパイロットの救助をお願いします。
私とシンジ そして二つのネルファを欺く道具を使えば、きっと救出出来ます」

「……わかった」
腹を括ったのか、現場監督は力強く頷いた。

「シンジ……今、助けるから……」
アスカは両手に荷重すぎる程抱えて歩きだした。

アスカはネルファの索敵範囲からぎりぎり離れた所を通り、
現場の入り口からもっとも遠い つい先日アスカが落ちた穴の向こうまで走って行った。

「アスカ!? 何をやってるんだ……ストーブ? そうか!」
シンジはアスカがやろうとしている事を理解したのか、アスカから出来るだけ離れる為
自分の方にネルファを引きつけた。

「よっと」 アスカは板製の橋を渡り、つい先日落ちた横幅20メートル深さ2メートル
奥行き5メートル程の穴の向こう側に辿りついた。

「現場監督には言わなかったけど……私の方を感知しないとは限らないのよね……」
アスカは小声で呟いたが、シンジが今も引きつけてくれているのを見て決断した。

アスカはストーブとラジオのスイッチを投入した。

その途端、これまでシンジを追っていたネルファの足が止まり、
まるで逡巡するかのように身体を左右に動かした。

今の所、聴音モニターではシンジを追いかけ、赤外線ではストーブを感知しているのである。


シンジは危険な賭けではあったが動きを止め、ここからではたいした音量では無い
ラジオにネルファが注目するように仕掛けた。

シンジはふと、ミサトと行ったJAの阻止行動を思い出していた。
最後に残されたのは希望……パンドラの箱の最後に残された皮肉めいたその単語は
時にして人を救い、そして人を更なる絶望に人を誘うのであった。

ズシン

目の前でネルファが角度を変え、アスカのいる穴の方へ歩きだしたネルファを見て
シンジは安堵したが、下手したら橋を渡ってそのままアスカの元に行くのでは無いかと
の思いが沸き起こり、シンジは胸を痛めた。

だが、そんな事に気づかぬアスカ様(?)では無く、
苦労して木製の橋を取り外した所であった。

ふと左を見ると、現場監督が振り落とされたパイロットを引きずって行く所であった。
救急車のサイレンがどこからともなく響き始め、シンジは自分のした事が無駄では無かった
事に気づいた。

ネルファは穴の向こうにいるアスカ 及びフレア に向けて全力疾走を開始していた。
書いてる時の誤変換 全力失踪 全力で失踪してどうする……

「もし、ネルファが私の想像以上にジャンプ力があってもアウト……
 穴に気づいて立ち止まってもシンジが危なくなるからアウト……
 いくらミサトでもこんなリスキィな作戦を承認したりしないわね」
アスカはミサトの口調を思い出しつつ呟いた。

そのシンジはネルファの後を追いかけて来ているようであった。
「ほんと……馬鹿なんだから……四年前とちっとも変わって無いんだから」
アスカは浅間山の火口でシンジに助けられた事を思い出し、涙を滲ませた。


そしてネルファはアスカの目前まで迫り、穴に足を取られその動きを大幅に制限された。

「もう……大丈夫だよ」
シンジはネルファの背後に取りつき、緊急停止用のスライドバーを引き抜いた。

救急車から救急隊員が飛びおりて来て、救助されたパイロットが保護されるのを見て、
アスカは緊張の糸が切れたのか、フェンスに背中をもたせかけた。

「家に帰ろう…アスカ」
シンジはフェンスに身をもたせかけていたアスカを抱き寄せて言った

「うん……私たちの……家に」
アスカはシンジの家族に戻れた事に心から喜んでいた。


そして15分後……

ようやくネルフのネルファの緊急対策部隊が来た頃にはシンジとアスカの姿はもう無かった。


「あ……これ返すの忘れてた」
作業員は右手にスーパーの袋を握り締めているのを思い出した





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どうもありがとうございました!


第7話 終わり

第8話 に続く!


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