異説・12月3日の水曜日




注意! この小説は精神を汚染する可能性があります。ATフィールド全開でお読み下さい。


尚、前作”12月3日の水曜日” を読了してからで無いと理解出来ないかと思います。





作:尾崎貞夫



後編



「ありがとう……アスカ」 かすれる声でベッドの上の男が呟いた。
え……私の名前を呼んだような……私は記憶を辿ったが、知り合いの筈も無かった。

そんな事を考えていると、男の手が伸びて来て、私は手首をきつく握られてしまい、
私はベッドの上に引き寄せられた。
つーんと来るような血と膿の匂いに卒倒しそうになりながらも、私はもがいていた……
何よっ 何するのよ やめてっ 嫌ぁぁぁぁ

「ごめんね……シンジ 私……汚されちゃったよぅ」
もうやだよ……こんな姿……シンジに見られたら……私死んじゃう……

目が見えないのかしら……
私の身体を両手で撫で回して、まるで私の輪郭を知ろうとしてるみたい

なんで……こんな事に……
                              アスカ……アスカ……
うるさいわね 気軽に私の名前を呼ばないでよ……
”アスカ”って呼んでいいのは、シンジだけなんだからぁ……やめてぇ

ひとしきり撫で回した後、包帯男は私を抱きしめようとしていた。
私はベッドの上で包帯男から逃れようとしたが、
服とシーツが擦れあって思うようにいかなかった。

気持ち悪いけど、私に害意は持って無いのか、最初に引き寄せられた時以外は、
暴力を振るう訳でも無く、ただ私の身体を撫で回すだけだった。
だけど、この行為だけでも私はシンジに申し分け無かった……

                              アスカ……アスカ……

私はもがいてた時、食事をおいた移動式テーブルの上のものに目がいった。

テーブルの上にあるリンゴ……くだものナイフ……

                              アスカ……アスカ……

「いいかげんにしなさいよ! どうして私の名前を知ってるのよ 気持ち悪いっ」

私は手を伸ばして果物ナイフを取り、包帯男の顔に斜めに振り下ろした。

威嚇の為だったので、顔に巻いていた包帯を数枚斬っただけだったんだけど……


「何て事するのよ!」 突然寝室に入って来た綾波レイに私は果物ナイフを奪われた。

「あんた、この家にいたの? どうして助けてくれなかったのよ! それともグル!?」
私は綾波レイに言葉をぶつけた。
だが、レイは私にかまわず、包帯男の顔を調べていた。
「大丈夫?」 レイは包帯男の包帯を解いていった。

「嘘……」
                              アスカ……アスカ……

レイの手当てをうけながらも、包帯男……いや、シンジは私の方に手を伸ばしていた。
その顔には、至る所に丸い傷があり、左目は殆ど見えて無いのか、
僅かに開いた右目だけで、私を見詰めていた。

「どうして、この女の家にいるのよ! 助教授のお供だなんて、嘘だったの?」

「落ち着いて! 事情は説明してあげるから」 レイは私の方を振り向いて叫んだ。


数分後、手当てを済ませたレイは話を始めた。


「私の事から説明するわ……私は シンジの従兄弟なの……
碇の叔父様と初めて会ったのは、高校を卒業して上京して来た時よ……
両親を亡くしてた私は、働きながら高校を出て大学に行くつもりだったけど……
それまで働いてた所が潰れてしまったので、入学するかどうか困ってた時、
その大学の教授だった叔父様が私の名前を見つけて連絡してくれたの……
大学を出られたのは、碇の叔父様がいたおかげよ……で、進路の相談の事もあり、
一度訪ねて来るように言われてた私は、あなた達が松代に向かった日に、
叔父様の家を訪ねたの……けど、叔父様は何者かに殺されてたわ……
けど、叔父様の日記を見つけて……私は真実を知ったのよ……
日記の最後には、シンジを頼むと血文字で書かれてたわ……
人間(ひと)ならざる者から、あなたとシンジを助けないといけないと解った私は、
いろいろ用意をしてから、松代に向かったの……だけど遅かったの……
地下室を見つけて中に入ったら、顔に散弾をくらったシンジが死にかけてたのを、
持って来た薬で助ける事が出来たの……でも……その薬は副作用が酷くて……
二年経った今でもシンジの顔の傷は癒えないし、血も膿も止まらないの……」

「散弾銃……うっ頭が……頭がイタイ」 私は床に突っ伏してしまった。
眼は焦点が定まらず、私の制御下に無かった……そして……私は全てを思い出した。

「シンジ……シンジなの?」私はシンジの元にかけつけた。

「アスカ……会いたかったよ……アスカ」
私はシンジの首筋にホクロがあるのを見て確信した。
「ゴメンね……シンジ……わたし……わたし……」
「アスカ……」
シンジは私に拒絶されると思ったのか、おずおずと手を伸ばし私を抱きしめようとした。
不安そうなシンジの顔を見ている内に私は胸の痛みを感じた。
「シンジっゴメンね」 私はシンジを抱きしめて言葉を紡いだ。

「ホントは……私気づいてたかも知れないの……あなたとあいつが入れ代わってた事……
だけど……私……幸せだったから……偽者でも……シンジに優しくして貰って嬉しかった
から……だから……これまで、思い出せなかったの……」

「アスカ……」シンジの目元から涙が流れ出たが、眼の脇にある傷の血のせいか、
シンジが血の涙を流しているかのように見えた。
「ゴメンね……あの時……気づいてあげられなくって……シンジをこんなにしちゃったの
は私なのに……」

「アスカ 僕は最後に……アスカの匂い……アスカの感触 それらを感じたかったんだ」
「最後ってどういう事よ ねぇシンジ!」

「血が止まらなくなってるんだ だからいつもレイの血を輸血して貰ってるんだけど」

「どういう事なのよ ねぇ シンジ!」私はシンジの肩に手をやって揺さぶった。

「蘇生の時に使った薬の副作用よ……二年間……シンジは苦しみ抜いたのよ……
どうしても、最後にアスカに会いたいって言うから……」レイは顔を背けて言った。

「アスカ……僕はもういいんだ……アイツはアスカを幸せにしてくれてるんだろう?
今さら、こんな姿の僕が戻って来るより……今のままの方が幸せだと思うんだよ……」

「シンジっ 何言ってるのよ」

「アスカ……あなたがヤツを許しても……私はヤツを許さないわよ……
シンジをこんなにまで苦しめて……許せない!
本当はあなたの事も憎いのよ……シンジを殺しかけておきながら、
偽者とのうのうと暮すだなんて……」綾波レイは蒼白な顔で呟いた。

「綾波さん……あなたシンジの事 好きなのね……」 私はレイに問いかけた。

「違うの……お世話になった碇の叔父様の頼みだから……」レイは顔を背けて言った。
その背中が妙に寂しそうだった。

「レイ 父さんの頼みだけで 二年間も僕の為に輸血してくれたり面倒見てくれたの?
僕でさえ卒倒する程臭い膿のついた包帯をあんなに優しく剥がしてくれて……新しい
包帯を巻いてくれたのも、全部父さんの頼みだからなの? なら……もうレイに迷惑を
かけたく無いよ……これ以上……レイを苦しめるぐらいなら……」
シンジは、さっき私が持っていて、レイが叩き落とした果物ナイフに手を伸ばした。

「シンジ! やめてっ ごめんなさい……そんなつもりじゃ無かったの……
そうよ……最初は叔父様の頼みだったんだけど……シンジ……悲しげなあなたを見てると
……なんとかしてあげたかったの……アスカさんに会わせてあげたかったの……けど……
アスカさんの名前を連呼するシンジを見てると……ごめんなさい……私……嫉妬してたの」

「レイ……ごめんね……苦労かけて……」
「そんな事無い……そんな事無い」
「これからも……きっと苦労かけるかも知れないけど……それでもいいの?」
「シンジっ」

抱き合う二人を見ながら私は呆然としていた。
安易な愛の形にごまかされて、これまで偽りの愛と偽りの生活をして来た私と違って……
この二人は……苦しい状況の元、本当の愛と絆で結ばれていた事に気づいた。



じゃぁ……私はどうすればいいの?
シンジを殺そうとした……もう一人のシンジとこれまで通り生活出来るの?

シンジに愛され、シンジと共に暮した二年間は嘘だったの?
私はこれからどうすればいいの?

いくらシンジと同じ顔をしていても……アイツはシンジじゃ無い……
私はどうすればいいの?


アイツは……煮えきらないシンジに不満を抱いていた私の心が……
呼び出してしまったのかも知れない
私はその事に気づき、呆然と立ち尽くしていた。


私はふらふらと夢有病者のように部屋を出て、私たちの部屋に戻って来た。

二人の二年間の思い出の詰まったこの部屋も……今となってみれば……

私は……どうすればいいの?」 私はソファーの上で頭をかかえた。


ピンポーン ピンポーン

いつしか寝入っていたのか、私は起き上がった。

チャイムの音……鳴らしているのは……誰?

ガチャリ……扉を開ける音の少し後に、シンジの声が聞こえて来た。

「あれ?アスカ いないの?」

「私……全部思い出しちゃったの……」
私はリビングに入ってたシンジに言葉を叩きつけた。

「えっ? 何の事?」

この期に及んでとぼけるつもりなの?

「あなたが碇シンジじゃ無いと言う事を思い出したのよっ」

「アスカが……何を言おうとしてるか……解らないんだけど……僕には……欠落してる記
憶があるんだ……アスカと一つになったあの日の前の事は何も思い出せないんだ……」

「どういう事なの? 何が言いたいのよ……」

「僕は碇シンジ20歳……アスカは僕の幼なじみ……今は婚約者……
そういった記憶はあるのに、幼い頃 アスカと過ごした記憶が無いんだ……
もしかして、この記憶は僕のものじゃ無いんじゃ無いかと思って……
不安に思った事もあるんだ……」

「そんな言葉で私をごまかせるつもり?」私は怒気を孕んだ言葉を投げかけた。

「僕が書いた覚えが無い……日記があるんだ……恐くて、途中で読むのを止めるんだけど
君と一緒なら……読めるかも知れない……」
そう言ってシンジは机の引き出しから一冊のノートを取り出した。

ノートには、切々と偽シンジの思いが書かれていた。

*月○日

本当のシンジとすり変わった記憶さえ無ければ……こんなに苦しむ事は無いのに……
アスカは僕に笑みを投げかけてくれる……けど、この笑みは僕の為の笑みじゃ無い……
”シンジ”の為の笑みなんだ……僕は幼い頃見た、アスカを見て……いつもアスカといる
シンジが憎かった……だから、計画を練り……すり変わったんだけど……辛いんだ……
アスカを抱いていても……何をしていても、罪の意識に似たものを感じるんだ……

○月X日

もう堪えられない……予てよりの計画を進める事にする……この僕の意識を消し……
新たな、シンジの人格を作り出せば……
罪の意識を感じる事無く、アスカの愛を受入れる事が出来る そうするしか無いんだ……
結局僕はシンジに負けたのかも知れない……けど……次 目覚める時……僕はシンジだ


ここで、日記は途切れていた。

二人でここまで読んだ時、私は全てを理解した……
結局もう一人のシンジは罪の意識に堪えられずに逃げたのだ……
だけど……ここにいるシンジは……私の大好きなシンジには違いない……
この二年間……偽りでも……楽しかった……

「アスカ……僕は君に酷い事をしたみたいだね……けど……僕はアスカの事が好きだ……
この気持ちは変わらない……あ……アスカの事を好きだと言う気持ちさえ……
植えつけられてるのかも知れないけど……本当の事なんて……解らないよ……
こんな僕で良かったら……アスカさえ許してくれるのなら……アスカと一緒にいたいんだ」

「シンジ……もう一度やり直しましょう……
婚約者じゃ無く……恋人からやりなおそっ そうすれば……本当の愛になるから……」

「アスカ……」

頼りなげに震えるシンジを抱きしめながら、私はシンジと共に暮して行く事を決意した。
私は、惣流アスカ……そして、コイツが私の愛する男(ひと)碇シンジ……
それだけで……充分よ…… ねっ




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どうもありがとうございました!


12月3日シリーズは、これで完結です。 愛読 どうもありがとうございました。 <殆どの人は嫌々読んだと思うゾイ(笑)


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