「まったく、今日は驚く事ばかりだよ……加持君の裏切り……そして、事前に情報を
知ってでもいない限り無理な程の早さで私の救出……いつか説明して貰うよ」
さすがNERVの副司令 今回の救出劇が茶番に過ぎない事を看破していた。
「お約束しますわ」 赤木博士はそう言って笑みを浮かべた。
すぐ近くにいたのか、ヘリの羽音が聞こえて来たので、俺達は広い場所へ移動した。
「俺がここにいたらまずい事になるので、一人で帰りましょうか?」
「そうね じゃ服を着替えた場所まで自力で戻る事出来る?」
「ええ…… それじゃここで……」
俺はホルスターを外そうとしたが、赤木博士は黙ってそれを押しとどめた。いざと言う
時の為に持っておけ と言わんばかりに副司令には見えないようにウインクまでして…

俺は最初に待機していた場所に身を潜め、赤木博士と副司令がヘリに乗り、去って行く
のを確認して、途中でこの服に着替えたNERVの秘密施設の一つに向かった。


【変革を求める者】

第52話 「せめて人間らしく Aパート」

*今回はアスカの視点で進行します


 冬月副司令の誘拐騒ぎの翌日の午後……伸び伸びになっていた繁智のシンクロテスト
が終わるのを私は控え室で一人ベンチに座り待ち続けていた……もう40分にもなる。

「はぁ……お茶でも飲もうかな……けど、もうすぐ終わるかも知れないし」
早く終わったら二人で帰りにどこかでお茶でも飲んで帰りたいな と私は思っていた。
最近……喧嘩してる訳でも無いのに、繁智とろくに話も出来ていないし……この間から
夜もよく眠れないし、ふとした事で妙な不安感に捕らわれて落ち着きが無くなったり、
最近私は何か変だ……

 繁智と付き合うようになってから、日本に来るまでのような重圧感を感じなくなった
それは自分を偽らないただ直向きなまでの熱意で私に接してくれた繁智と付き合う事で
私も変わる事が出来た……私はそうした自分の内面の変化を好意的に受け止めて来た。

 繁智不在の二週間そして入院している間の一週間で、私は精神的にいかに繁智に依存
していたかが浮き彫りになった……ただ自分の拠り所を繁智に求めただけで、私は何も
変わってなど無いのかも知れない そんな嫌悪感に打ちのめされもした……ヒカリが傍
にいてくれなかったら、私はもたなかったかも知れない……考えないようにしても、
ママに捨てられ繁智にまで置き去りにされたらと考えると私は正気ではいられなかった

 別に繁智が私にとっての白馬の王子様だった訳でも無い……女性心理の理解など到底
出来ない朴念仁だし、時として無神経だったり……ちょっとした不満が無い訳ではない
だけどそれは求めるだけでは手に入らないモノ……お互いを理解しあい、少しづつ変え
ていく事で、対応するしか無いのだ……

「ここにいても余計考え込むだけか……様子見に行って来ようかな」
私は立ち上がり、控え室を出てシンクロテストのオペレータールームへと足を向けた。

 オペレータールームの中は赤木博士や伊吹二尉 そして名前の知らない人が一人、
強化硝子の向こうのシンクロテスト用のプラグとモニターに交互に目線をやり、
何か相談をしていた。 私は出来るだけ足音を立てないようにオペレータールームの隅
に立ち、強化硝子の向こうのエントリープラグを見つめていた。
「あら、アスカ いらっしゃい もうすぐ終わるわよ そこに座って待ってたら?」
赤木博士が私に気づいて声をかけて来た。 前の赤木博士にはとりつく島の無いような
印象を感じていたのだが、最近とても取っつきやすく感じるようになって来ていた。
私は赤木博士が指さした見学者用の空いている椅子に腰をかけた。

「じゃあもう2レベル上げてみてくれる?」
「はい わかりました……シンクロ率43.3%のまま変わらず 精神汚染域までには
まだ余裕がありますね」
「そうね……もう少し上げても大丈夫だとは思うけど……今日はこれぐらいにしましょ
あくまでこれはテストなんだし、必要以上に危険に晒す必要は無いわ」
「わかりました レベルを通常域に設定……実験終了です 吉田君 お疲れさま」

 私は赤木博士と伊吹二尉のやりとりを見て、やはり赤木博士は変わって来たんだなと
思った。 私はふとモニタリングされているプラグ内の映像が写されているモニターを
発見し、覗き込んだ。 繁智は静かに眼を瞑ったまま高いシンクロ率を維持していた。

「あら、どうしたのかしら……もうテスト用のプラグは開放したのに出てこないわね」
「じゃ私 ちょっと見て来ましょうか? もしかして繁智寝入ってるのかも
「まさか…まぁけど見て来て頂戴」赤木博士がくすりと笑って私を送り出してくれた。
私は部屋を出て近くにあるエレベーターに乗り、テストプラグのある一角に辿り着いた
着いた頃には作業員の手により、すでにハッチは開かれていた。

「よいしょっと……繁智 繁智?」今日のテストではLCLが注入されていなかった
ので、私はテスト用プラグの中に入っていった。 だが、私がこうして呼びかけても
繁智は微動だにせずシートに座っていたので、私は繁智の頬をぺたぺたと手ではたいた

「ああ……アスカか 終わったみたいだな……」繁智は私を見て緊張を解いたようだ。
実験の間は眉間に皺を軽く寄せていた為、眉の形が変わっていたが、
こうして相好を崩すと繁智の眉はとても優しい形をしている……私はとても好きだ……
その鋭い一重瞼な目やひきしまった頬……無骨な感じの唇……繁智にこの眉が無ければ
きっともっと怖い顔に見えている事だろう……まぁ今でも一般受けしそうには無いけど

「何よ 本当に寝てた訳? あっきれた」
私は繁智の顔を見つめていた事を悟られまいと思い、場の空気を変えようとした。
「いや、瞑想してただけだよ 半分ぐらい寝てたようなものだけど」
「それでシンクロ維持出来る訳? 今度私も試してみようかな……」

「はいはい 起きたんなら出て来なさいね」プラグ内のスピーカーから赤木博士の声が
聞こえて来た。 どうやら気を利かせてくれたらしく中をモニタリングしてないようだ

「じゃ行きましょ 今日はもう私もNERVに用無いし……」
「着替えて来るよ……自販機の前で待っててくれるか?」
「分かったわ じゃ、上の階まで一緒に行きましょ」
最近私が塞ぎがちだったせいか、繁智は少しほっとしたような顔をしていた。
だけど、体調にはまだ波があるのよね……生理前だからかな……

 私は上の階で繁智と別れ、チルドレンの控え室や更衣室近くのジュースの自動販売機
の傍のベンチに腰を降ろした。 空調は行き届いているものの少し乾燥した空気を感じ
ながら私は繁智が着替えを終えてここに来るのを待っていた。

 コツコツというハイヒールの音がしたかと思うと、角から葛城三佐が現れた。
「あら、待ち合わせ? ラ〜ブラブよねぇ〜……プラグ内での事 聞いたわよ?」
「ミサト……三佐」以前は名前を呼び捨てにしていたのだが、さすがにいつまでもそう
いう訳にはいかないが……ミサトさんと呼ぶには違和感あるし、官名で呼ぶのも変だ。
「あら、昔のようにミサトでいいわよ こういう場ではね」
「うちでもあてられっぱなしなのよね……シンジ君とレイちゃん。 これじゃまるで、
新婚さんの家に紛れ込んだ小姑みたいな気分なのよ」ミサトはため息をついて言った。
「小姑じゃ無くて姑じゃ無いの? ミサト」
「言うわねぇ……ま、それでこそアスカよ……最近元気無かったみたいだし、心配して
たんだけど、大丈夫そうね…… けど、ちょっと顔色は良くないかな?」

「ごめん……ちょっとトイレ行って来る……気持ち悪い……悪いけど、繁智が来るかも
知れないから、ここで待っててくれる?」
「いいわよ けど、大丈夫?」

「きもちわるい……」私はトイレに飛び込み胃の中の物を吐き出してしまった。
最近なにか身体に異物感を感じていたような気はしていたのだが、
何か悪い物でも……いや、そんな感じじゃ無くて……
私は洗面所で口元を拭い、お腹をさすりながらミサトの元へ向かった。

私がトイレから出て自販機の前に行く間 ミサトがずっと私を見てくれていた。
心配させちゃったかな……

「ねぇアスカ……あなたそれって……もしかして 妊娠?」
ミサトは少し緊張した顔つきで私に問いかけて来た。
「は?」私は一瞬ミサトが何を言っているのか分からなかった
「病院行くの嫌なら私がコンビニで検査薬買って来てあげようか?」
ミサトは相変わらず真剣な眼差しで私を見つめていた。

「ま、まさか……そんな だってほんの先週の事なのにそんな訳………」
私はミサトの誤解を解く為に慌てて説明を……って あわわ
「…………へー先週……先週に……何をしたって?」
「ナニを……って……え?何の事?」
「アースーカー?」
「え……だってお姉さんの許可貰えたし……宿直してた伊吹二尉にはモニタをその…」
あの時の事を思い出すと顔が火のように熱くなる……
あの時はいてもたってもいられなくて、智子さんに相談しにいったのよね……

「あれ、ミサトさん どうしたんです?」
その時、ようやく繁智が現れた。
「何でも無いの さっ行きましょ じゃあね ミサト」
そう言って私は繁智の手を取って駆けだした。

「ちょっとアスカ まだ話の途中でしょっ ……気を付けなさいよ? もう……」
私は内心舌を出しながらもミサトの気遣いに感謝していた。




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第52話 終わり

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