「そんなに悩む程の事じゃ無いと思うけどな 私はてっきり別の悩みだと」
アスカがシンジと綾波の顔を交互に見て言った。
「もっ からかわないでよ〜アスカ」
「何で碇君はそんなに困っているの?」
「綾波ぃ〜 そ、それは……」
戦いの合間のほんの一瞬の心の交流に気を許していたのだろうか……
アダムからの警鐘に俺は気づく事無く、その時既にゼルエルが侵攻を始めていた。
【変革を求める者】
第45話 「男の戦い Bパート」
そして昼休みが終わりを告げようとしていた頃…教室に向かって雑談をしながら歩いて
いると、緊急警報のサイレンの音が鳴り響いた。その直後に俺たちが持たされている連絡
用の装置から緊急事態と集合を告げるメロディが流れた。
俺たちは顔を一瞬見合わせた後、無言で玄関へと走り始めた。
上履きを脱ぎ、靴に履き替えている間も一般の学生の避難と重なっていた為素早く行動を
起こす事が出来ない そんな状況に陥っていた。
普段なら警報のサイレンが鳴る前にチルドレンには連絡が来るのに、それが同時だと言う
事は余程慌てていたのだろうか 俺は名前と大まかな存在だけ知っているゼルエルの襲来
だと確信した。
「もう電車も動いて無いよね どうする?吉田君 迎えの車が来るのかな」
「サイレンと俺たちへの通知が同時だったぐらいだから、それを待ってたら街は半壊する
と思う。 こっちだっ」
ようやくチルドレン全員が靴に履き替えたのを確認して、俺は警備の人間がいつも黒い
車を止めている場所へと駆けだした。
「車二台 すぐに用意出来るか?」石川さんなら話が早いのだが、今日は非番か別の場所
にいたのかで面識の無い黒服の男しかいなかったが、俺は早口で問いかけた。
「一台は今周囲を巡回中なので、小型車一台しか無いですが」
黒服の男が指さしたのは黒く塗られてもいない、どこにでもあるような小型車だった。
黒塗りの車がいつも同じ所にいれば地域住民に怪しがられるからだろうかと俺は思った。
「これじゃ五人乗れそうに無いわよ 後部座席狭いし」
すかさず車をチェックしていたアスカが叫んだ。
「取りあえず乗ってみるわ」レイが後部座席のドアを開けて乗り込んだ。
後部座席にレイとシンジとアスカが入れるか試してみたが無理だと言う事が分かり、
俺は一瞬迷った。 こうしている間にもゼルエルがすでにヘリと戦闘をしている音が
遠くから響いて来ているのだ。
結局後ろには二人しか乗れないと判断したアスカが何を思ったのか運転席の扉を開けて
乗り込み、鍵が刺さっていたのか、エンジンを始動させた。
「おい どうするつもりだ」
「チルドレンがいなきゃエヴァは動かないんだから仕方無いでしょ 早く助手席に乗りな
さいよ」アスカはすでに車を微速で前進させており、俺はかなり不安が残るが助手席に
乗り込んだ。
「一番近いゲートまでの道順 誰か分かるわよね?」アスカが車を大きい通りに向けて運
転しながら問いかけて来た。
「分かると思うよ そこまっすぐ行って大きい道に出たら左折して」
シンジが後部座席から身を乗り出して言った。
「りょおかい〜 飛ばすわよ〜 シートベルトはしたわね? 神様にお祈りは?エチケッ
ト袋の準備はOK?」 アスカは狭い住宅街の側道を50キロほどで駆け抜けた。
「おいおい 運転した事あるのか?」
「何言ってるのよ アメリカじゃ16歳から運転出来るのよ?」
「まだ14歳じゃ無いか それにアスカがいたのはドイツだろ?」
「アメリカ国籍だからいいのよ 舌噛むから黙ってた方がいいわよ?」
アスカは大きい道に出る時も減速などせず、タイヤを軋ませながら急ターンした。
後で聞いた話だが、ドイツのNERV支部は広大で部署間でも車を使って移動するのだそ
うだが、運転時間は累計2時間だと聞いて よく無事に到着したものだと思ったものだ。
少し顔を青ざめさせながらもシンジは必死でナビゲートをし、レイは眼を瞑って平然とし
ているように見えたが、しっかりとドアノブを握っているようだった。
10分ほどの走行でアスカの駆る小型車は最寄りのゲートの前にスピンターンまでかまし
て到着した。途中で携帯電話から連絡した事もあり、最寄りのゲートには既に迎えが来て
おり、俺たちは半ば走りながらケイジへと向かった。
「戦自の攻撃ももうすぐ打ち止めになるから、すぐ出て欲しいとの事です」
どうやら作戦部の一員らしい女性職員がミサトさんからの伝言を俺たちに伝えた。
「もうケイジに向かってるの? プラグスーツはどうするのよ」
アスカが俺たちほぼ全員が思っていただろう疑問を代弁した。
「ケイジにプラグスーツとついたてを今用意してるそうです」
「この服のままじゃLCLの浄化精度が落ちるし、生命維持も難しいから着ない訳には
いかないみたいね なんか普段より戦自が時間稼ぎ出来ないって事は強そうな使徒だし」
アスカが学校の制服を指でつまんで言った。
「ってついたて一つしか無いじゃ無いのよ!?」
ケイジに到着したものの、ついたてが一つ 隅の方に置かれているだけであり、アスカの
かんしゃくが炸裂した。
「仕方ない ついたてはアスカとレイで使ってくれ」
俺はそう言ってワイシャツを脱いだ。
「わ、分かったわ」アスカは自分のプラグスーツを手についたての向こうに歩いていった
女性陣がついたての向こうに消えたのを確認して、俺は手早にシャツやズボンを脱いで
いった。 ちょっと向こうの方には作業員が作業をしてはいるが、この緊急時に俺たちが
している事に気づく余裕は無いだろうと俺は判断した。
一応シンジに気を使って背中合わせで服を脱いだが、シンジは少し戸惑っているようだ。
服を全て脱ぎ捨てて、ぶかぶかのプラグスーツを着るというかかぶっていると、
まだ着替えの途中で少し躊躇していたシンジも服を全て脱いでプラグスーツに腕を
伸ばしていた。
「ごめん チャック上げてくれないかな?」
何とかプラグスーツを着て空気を抜いた時、シンジが声をかけてきた。
一応一人で着れるように設計されてはいるのだが気が急いていた為うまく背中のチャック
が上がらなかったのか、まだ裸の上半身を晒したシンジが話しかけて来た。
俺は黙って頷きチャックを上にあげてやった。
そして、手早く脱いだ物を足下に纏めた頃には女性陣も着替えが終わったようで、
俺たちはケイジ内のエレベーターに乗り込んだ。
「四人で戦闘するのは……初めてだね」
緊張しているのか手を握ったり離したりしながらシンジが呟いた。
「そうね……四号機は納入されたばかりだし……」
レイは言わずもがなの事を呟いた。 シンジが抱いているだろう期待と不安をどこまで
理解しているのだろうかと俺は感じた。
「これまで三人じゃカバー仕切れ無かった部分も、四人になる事で補えると思うし、
まぁ油断しないようにして、堅実に攻めたら勝てるんじゃない?」
アスカが俺の言いたかった事を代弁してくれたので、俺は黙って頷いた。
全員がそれぞれの力を出し切れば勝てない相手などいないんじゃ無いかと、
その時俺は淡い希望すら抱いていた。手の届かない所で仲間が攻撃される時、俺には何も
出来ないと言う単純な事すら失念させる程、戦力の増大に浮かれていたのは俺だった。
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第45話 終わり
第46話
に続く!
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