「碇君……」が、綾波は意図してか僕の右手を抜かせてはくれなかった。
僕は綾波の望んでいる事……それは僕も望んでいる事に気づき、
右手に力を入れ、綾波の背中を浮き上がらせた。
一瞬 無理やり手を引き抜かれるのかと思って悲しそうな表情をしている綾波に
僕はそっと 顔を寄せた。
顔を真っ赤にしたまま 瞼を閉じた綾波に 僕はそっと唇を重ねた。
陳腐なまでの表現だが、永遠かのように思われた一瞬は過ぎ去り、
吉田君とアスカをタクシーで送り、その足で戻って来たミサトさんがドアホンを
押すまでの僅かな間 僕たちは離れる事が出来ず、お互いを抱きしめあっていた。
帰って来たミサトさんが綾波の制服の服の乱れに気づき、笑いながら四本目のビール
に手を伸ばしたのを 僕は止める事が出来なかった。


【変革を求める者】

第34話 「嘘と沈黙 Gパート」
(外伝と話がクロスしてますので読んでおいて下さい)


「えーとそこの突き当たりの三叉路を左に曲がって下さい」
俺はタクシーの助手席で、運転手に道を教えていた。

「さて、明日は親友の結婚式なのよね……シンジ君とレイちゃんは、
シンジ君のお母さんの命日だから墓参するそうよ」
「この間も親友の結婚式だとか言って無かった?」
「そうなのよ ぱたぱたみんな結婚しちゃって」
あかん 頭の中では完全に谷崎先生モードだ
「じゃお祝い金だけでも大変そうね そろそろ元取らないの?」
「アスカに冷やかされるとはね……覚えてなさいよ」
「あはは 図星だったみたいね」
送るといって聞かないミサトさんとアスカは後部座席で楽しそうに話していた。

夜なので、時折後ろから車のライトが照らされ、恐らくは護衛が乗っている
黒塗りの車がついて来ていた。
そんな事ならあの車に乗せて貰った方がいいかも知れない……
などと考えていると、俺の家が見えて来たので、俺は運転手に話しかけた。
「そこの、道路が広くなってる所に止めて下さい」

街灯の明かりの側には小さな虫が群れを為して飛び交っていた。
タクシーから降りたアスカが手で虫を払ったが、あまり効果は無かった。
「ちょっと挨拶したら私も乗るから待っててくれる?」
そう言ってミサトさんはタクシーから最後に降りた。

時間は8時半 姉さんと親父も食事を済ませている頃だろう。

「ここが吉田君のお家か お姉さんとは話した事あるけど、
吉田君のお父さんに一度挨拶しておきたかったのよね」
俺達は玄関の前まで歩いていった。

俺が呼び鈴を押すと、すぐに姉が玄関に現れた。

「あら、繁智 アスカちゃん お帰りなさい あ、葛城…三佐ですよね
わざわざ送って下さったんですか?」

「直接会ったのは停電騒ぎの時以来ね この二人仲良くやってるかしら?」
さっそく、冷やかし国際A級ライセンスとまで言われるその技を繰り出して来た。
(c)四国の悪夢 アナベル・カトー

「もう当てられっぱなしで、独身の私や男やもめな父には眼の毒で」
ミサトさんの問いがジョークである事を察した姉も即座にジョークで返していた。
「早速仕返しするなんて……大人げない」
二人がかりで冷やかされ、いわば殲滅包囲戦を仕掛けられた俺達は冷や汗を流す
事しか出来なかった。

「お父様にも一度ご挨拶を と思いまして」
「あ、そうですか ですが父はいつも9時には寝るので今風呂に入っておりまして」
「そうですか では次の機会と言う事に」
「すみませんね お茶も出さずに玄関先で……」
「いえいえ、それでは失礼します 吉田君 アスカ お休み」
俺達は一言も発する事が出来ず、二人の大人の会話を見ていた。

「おやすみ ミサト」
「ミサトさん おやすみなさい」
俺達はタクシーに乗り込むミサトさんを見送って、玄関に入った。

「割と早かったのね もうすぐお父さんがお風呂から出るから、どっちか
入りなさい」
「私 ちょっと見たいテレビがあるから、繁智先に入ってくれる?」
「ああ そうするよ」
俺はひっかけていた薄手のジャケットを脱いで風呂場に向かおうとした。

「そのズボンも結構汚れてるわね 中の物出して篭に入れといて」

「了解」 親父もすぐに出そうな気配なので俺はズボンを脱ぎ中の物を出した。
財布と鍵入れ そして加持さんから貰った、恐らくは偽造のセキュリティカード
俺はもう一度それを眺めた後、財布の中に閉った。
どう使うか 使い時に困るが、いざと言う時の切り札になるだろうと俺は思った。

そして、翌日……日曜日だと言うのに普段起きる時間に眼が醒めてしまった
俺は、トイレの為に一階に降りていった。

「おはよう 繁智 姉さんこれから出かけて、お昼には帰るから」
三交代で当番・非番・休日となっている交通課の外勤職員である姉は
事務職員などと違って、滅多に土日に休める訳でも無い為、たまの日曜の
休日だと午前中は警察署のテニスサークルで汗を流す為に出かけるのだった。

「ご飯は炊いてるから、卵でも焼いて朝御飯食べなさいね お昼はアスカちゃん
が作ってくれるって言ってたから」姉さんは靴を履きながら言った。

「あれ、父さんも出かけてる?」父の靴が無いのに俺は気づいた。
「言って無かったっけ? 父さんの学校の空手部が対外試合するそうよ」
「あれは今週だったのか……わかったよ」

俺は姉さんを見送り、居間に入っていき、新聞を広げた。
そして、今ごろになって今日の昼まではアスカと二人きりと言う事に気づいた。

「アスカはまだ寝てるのかな…」 俺は姉さんの食事した跡を見たが、
二人分 恐らく父さんと姉さんの分しか流しには置かれていなかった。

「腹減ったな……アスカも食べるかな?」
俺はアスカに朝食を食べるかどうか聞きに行く事にした。

「おーい アスカ 朝食だけど、食べるか?」
「ん〜ん」
同意とも否定とも取れない返事が返って来たので、
確認する為、ノックをしてドアを開いた。
「どうする?食べるなら卵でも焼くけど……て寝てるのか」
さっきは問い掛けられた事に無意識で反応した と言うか寝言だったようだ。
暑かったのか アスカは布団の上で薄手のタオルケットを蹴飛ばしており、
寝相のせいか、薄手の寝間着はあちこちめくれており下着が顔を覗かせていた。

「父さんと姉さんは一階で食事してたのに、眼が醒めなかったのか」
別に寝たいなら寝かせておいてもいいのだが、後で俺だけ朝食を食べた
となると怒るかも知れないので、俺はアスカに近づきもう一度声をかけた。
せっかく二人きりなのに、その貴重な時間を睡眠で減らすのがもったい無い
との思いもあったからだ……

「アスカ 朝御飯 食べるか?」
俺は乱れていたアスカの寝間着を整えた後、アスカの耳元で問い掛けた。

「んんーん」
その時であった 寝返りを打とうとしたアスカの右腕が唸りをあげたのは……
死角から伸びて来たアスカの右腕に俺は首の後ろ 延髄の辺りを打たれ、
一瞬気が遠のいた。 
俺の延髄を打った右腕はそのまま俺の首を後ろからホールドし、
片方の膝を付けていただけの体勢の俺は体勢を崩し、アスカの身体の上に重なり合った。更に寝ぼけたアスカは左腕でも俺をまるで抱き枕かのように抱え込み、
俺はアスカの胸の谷間に顔を押しつけられ、身体をホールドされ、抱え込んだ右腕で
頚動脈を締めつけられ、意識が一瞬遠のいた。

「こ、こら、アスカ 起きろ」だが、アスカは腕の力を抜こうとはしなかった。

格闘芸術と言うだけあってマーシャルアーツにはこんな締め技や寝技があるとは……
空手一筋の俺は打撃系には強くても柔術や柔道のような締め技も関節技も無く、
その外し方についても本で読んだ程度の知識しか無かった。

まずい 果てしなくまずい このまま俺が落ちてしまったら、誤解される事は必死だ。
だが、アスカの身体の柔らかさを感じてしまっている事もあり、
強引に身体を引き剥がす事も出来なかった。

天国と地獄 もしそのような物がこの世に存在するとすれば、ここにあるのかも知れない
願わくば 昼までには意識を取り戻したい そう思った次の瞬間
俺はアスカにより強く締められ意識を完全に失ってしまった。

……………
……………
……………
結局俺が意識を取り戻したのは姉さんが帰って来た12時半であった。
完全に意識をうしなっていた俺は鬼のような形相の姉に起こされたのだ。
アスカはアスカで俺が起こそうとした事を全然覚えていないらしく、
俺はその日の夜まで姉にからかわれ続けた。
どうしてそんなにアスカが寝ていたかと言うと 昨夜遅くまで今日の昼食
の為のドイツ風ビーフシチューを作っていたと聞き、怒る事も出来なかった。




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どうもありがとうございました!


第34話 終わり


外伝1・Dパート に続く!


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