「ところで、加持さんとどんな話してたの?」
ソフトクリームを食べおえたアスカが真剣な表情でちらりとこっちを向いて言った。
表情の半分は逆行の為よく見えなかったが、憂いを秘めている事はすぐわかった。
「…………」どこまでわかっているか分からないアスカの問いに俺は即答出来なかった。
「繁智が一杯抱え込んじゃってる事も分かってる……それも私たちチルドレンの事で
加持さんも……いつもは明るそうにしてるけど いろいろ抱えこんでるみたい……
その二人が真剣な表情で小声で話してるんだもん……私たちにも関係する事でしょ?」
「ここでは話せない……黒服もいるし……」
「私も繁智に話しておかないといけない事あるから……今夜にでも……」
「わかった……」
【変革を求める者】
第32話 「嘘と沈黙 Eパート」
(外伝と話がクロスしてますので読んでおいて下さい)
デパートを出て賑やかな街を歩いていると、明日にでも使徒が襲いかかって来て、
撃退に失敗したら世界が破滅する…… そういう危機が迫っているような状況には
見えなかった。 だが繁華街の各所にもシェルターへの進入路はあるし、
繁華街のアーケードの無い部分からは兵装ビルやエヴァの出撃に使われるビルなどが
望め、繁栄と危機とが背中合わせだと言う状況を再認識せざるを得なかった。
「どうかしたの? きょろきょろして」それまで無言で俺の横を歩いていたアスカが
無言で街を歩くのに堪え切れなくなったのか 話しかけて来た。
「ん いや、ちょっとね」兵装ビルを見ていたと言う訳にもいかず俺は言葉を濁した。
「今日 繁智のお父さんと智子さん 何時ぐらいに帰って来るのかな」
智子姉さんの事は智子さんと呼んでいるアスカだが、さすがに親父の下の名前”繁男”
を呼ぶのには抵抗があるのだろう。
妹が欲しかったと言う智子姉さんは三日程でアスカと馴染み、じゃれあってる姿を
見ると姉妹かのように見えたものだ。 警察官とエヴァンゲリオンのパイロット……
どちらも命を張って治安や平和を守る者として 気が合うのかも知れない。
「親父は土曜はいつも3時半ちょいにはいつも帰って来るけどな 智子姉さんは
4時ぐらいかな」
「守秘義務のある事も話すかも知れないし、家で話す? 今からなら一時間ぐらい
大丈夫みたいだし……」 確かに喫茶店でおいそれと話すような事では無いだろう
だが、家で二人っきりで話す事も親父と姉に要らぬ誤解を招く気もしていた。
「あ、あそこの歩道橋 もう直ってるんだ……」 第三新東京市の最も広い8車線も
ある道路を渡す歩道橋だが、 最初の初号機の暴走やラミエル戦などで二度も粉砕
され、ようやく三度目の着工が成ったのだった。
「ちょっと遠まわりになるけど、あそこで話そうか…… 黒服に話を付けて来るよ」
俺はアスカをその場に待たせて後方50メートル程をついて来ていた黒服に
手を上げて呼びかけた。
「どうかしましたか?」
「ちょっと守秘義務に関る事でアスカと相談しないといけないんだけど、
もう一人の護衛と あの歩道橋の両方の出入り口固めておいてくれないかな?」
「そうですか すぐ準備します 少々お待ち下さい」
黒服はそう言って小型無線機を取り出して 指示を下していた。
「準備出来ました まだ、工事中のパネルが残っているそうなので、それで封鎖
しておきます」 護衛する場合は 最低3人は必用だからすぐ準備出来たのだろう
さすがに三度目の竣工なので わざわざ立ち寄る人もあまりいないようなので、
黒服による他者の締め出しはあっさりと完了し、俺はアスカと共に歩道橋の中央部分
に足を運んだ。 中央部分は少し張り出しており、俺達は並んで手すりに手をかけた。
「これだけ車が通ってるのに排気ガスが無いのはいいわね 多少砂塵は飛ぶけど」
「ドイツでは今でもガソリン使う車 走ってるのか?」
「大きな街の中では少ないけど、ちょっと田舎の方とか行くとガソリン車も多いわよ」
「…………」世間話から始めたものの、どう切り出していいやら分からないようで
アスカは悩んでいるようで、肩を少し揺らしていた。
「加持さんに合う前に……レイが空手を習い始めた時の話 したわよね 覚えてる?」
「ああ……」
「その時、ちらっと 私も繁智の事が気になってたから空手を習う事にしたって
言ったけど、聞こえてた?」
何か不安な事があるのかアスカはますます肩を震わせていた。
「うん……聞こえてたよ 光栄だな って思ったよ」
・信長最新作と凱歌の砲声 どうなっとるんじゃぁ てそれは コーエーか
「だからね……そっちが先なの…… ごめん これじゃ訳分からないわよね」
あの気丈なアスカが今にも泣き出しそうになりながら言った。
「もしかして、加持さん絡みの話?」 前回は殆ど接触が無かったアスカが、
今回に限ってはすぐに親しくなれた事に少し疑問を抱いて無い訳でも無かった。
前回はオーバーザレインボウに乗った訳でも無いのだが、考えはじめると不安だった。
「どうして……どうしてその事を……知ってるの?」
「知ってるとか どうかじゃ無くてさ 俺も不安に感じてる部分があったんだよ
アスカはさ 街歩いていたら男が10人いたら10人振り返るような女の子で、
俺は空手だけが生きがいで、クラスでも浮いてる 10人いたら10人が俺の存在
に気づかないような そんな希薄な存在なんだよ……それなのにアスカと親しくなれ
た時……ちょっと出来過ぎた話じゃ無いかなって思ったんだ……」
「それは違う……加持さんには只、繁智の事を探ってくれって言われただけで、
親しくなれとか言われた訳でも無い……繁智がシンジや私達を守ろうとする
一所懸命で愚直なひたむきさに惹かれたんだよ……他にもあるけど……」
「やっぱり 加持さんの差し金だったのか……」
俺は少し立ち眩みに似た衝撃を感じた。
「だから……それは、吉田の事が気になって空手を習うって吉田にお願いした後
何故だか分からないけど加持さんに頼まれて ついでだから引き受けただけなの
おねがい……信じて 信じてよ 繁智……」
ついに泣き出してしまったアスカを見て 俺は思わず抱きしめた。
「アスカ ごめん……それはアスカがそんなに気にするような事じゃ無いんだ……
大体からして加持さんに探られるような事をした俺だって悪いんだ……
それに…… まだアスカには話していない事だってあるんだ……」
「俺が弐号機のコアに君の母さんがいる事とかを知っているのも……
これまでの危機の時 多少手助けが出来たのも全て理由があるんだ」
俺は赤い海から生還した時、時代を逆行していた事を話した。
いろんなアドバイスが出来たのは、すでに起きた事柄を知っているからで、
本来俺だけでは何も出来なかっただろうと言う事を全て吐露した。
そして、本来はシンジを救うべく逆行して来たと言う事も話した。
「繁智……それは違うわよ たとえ今から起きる事を知っていても……
繁智のようにみんな行動出来る訳じゃ無いと思うし、怖い思いや嫌な思いを
すると分かってて、それでも前に踏み出そうとする事なんか誰でも出来ないよ
そんな繁智だから 好きなんじゃない……」
そう言ってアスカはそっと瞼を閉じた。
「ありがとう……アスカ」俺はアスカを抱きしめたままアスカにそっとキスした。
全ての蟠り(わだかまり)から解放され、シンジやアスカを守りたいといった義務では
無く、俺はようやく本当の自分の気持ちとしてアスカを愛しいと思い、
アスカを抱きしめたまま、時間の過ぎ去るのも忘れていた。
「はい そこまで……」俺は誰かに背中をそっと押されて我に帰った。
「ミ、ミサトさん どうしてここに……」
振り返るとそこにはミサトさんがいつもの笑みをたたえたまま歩道橋に立っていた。
「ミサト?」
泣いた為に少し目元が張れているのを気にしてか、アスカは俺の背に隠れた。
「明日の親友の結婚式に着ていく服の寸法直しが終わったんで取りに行く途中だった
んだけどね……護衛から連絡があってね それでここに来たって訳」
ミサトさんが指を差した場所に、ミサトさんのものらしいスポーツカーが止まっていた。
「と言うのは半分本当で 半分嘘ね…… アスカが付けてるそれ……盗聴器が入ってる
のよ……いつもオンにしてる訳じゃ無いんだけどね 二人が守秘義務絡みの話をする
って護衛に聞いたから、初めてオンにしてみたのよ」
「盗聴器! いくらなんでもプライバシーを無視しすぎて無い?」
まさかあの夜の睦言まで聞かれていたと思ったのかアスカは顔を真っ赤にして怒った。
「あなた達が同居を初めてからだけどね バージョンアップしたからって渡したでしょ」
暗にアスカの心配するような事は無いとでも言いたげにミサトさんは微笑んだ。
「じゃ、さっきの話も 全部聞いてしまった訳ですね どこからですか?」
それより深刻な事があるのを思い出して俺は問い掛けた。
「加持の奴がアスカちゃんにどうこうって話の途中からかな……」
「じゃ、殆どじゃ無いですか……」
「車に受信機あるんで、車から降りてからは聞いて無いけどね
けど、赤い海どうこうの話は聞かせて貰ったわよ これで全ての納得がいったわ
何でNERVでも数人しか知らない事知ってるのか とかいろいろね」
「騙していた と言うか何も言わなかった事は謝ります リツコさんには早めに
気づかれたんですけどね」
「ま、その話は今度NERVでしましょう……吉田君 ごめんね これまで
吉田君の事 ちょっち誤解してたわ……アスカも言ってたけど、分かっていても
出来る事と出来ない事がある それでも前に一歩踏み出した君は偉いと思うわ
あなた達の事も祝福するわね ま、10年早いけどさ」
「加持さんには最短で4年後ぐらいで仲人頼むと言ってますんで、それまでに
よりを戻しておいて下さいね」
「ムキー やっぱあんたチョッチ ムカツクわね〜」
ミサトさんは笑いながら俺の頭をぽんぽんと叩いた。
「そうそう 服取りにいった後はシンジ君と綾波が食事作ってくれるそうだから、
付き合わない? 二人分増えるって電話しとくからさ あの二人の事でも話あるしね」
「じゃ、お言葉に甘えようか アスカ」
「反対する理由は無いわ で、四年後って何? なこうどって何なの?」
「ドイツ語で何と言うかは 私にもちょっと分からないわね
ま、それは吉田君に教えて貰いなさい」
「なんか凄く気になるんだけど〜」アスカは頬を膨らまして怒った。
「あ、いつまでも車止めとけないから 早く行きましょ」
「了解〜 ところで今夜のメニューは何なの? お昼焼きそばしか食べて無いから
お腹空いちゃった」アスカも気に病んでいた事から解放されたのか笑顔を見せていた。
多少、紆余曲折はあったものの、全ていい方向に進んでいる
そう 俺は心から信じていた。
後書き
なんか気分的には第一部 完! て感じです。
思わせぶりな伏線めいた言葉がありますが、先の事などあまり考えてませんので、
空振りに終わるかも知れませんので、あまり気にしないで下さい(笑)
この話以降のプロットについて練りたいので、来週は作者都合の為休載の予定です
今回の話を書けて自分的には燃えつきたと言うか成仏した感じです
連載作品の途中で後書きはあまり書かない方ですからねぇ……
ps.エイプリルフールネタの有料化ですが、かなり信じてる人がいたようで困惑しました。
一部の更新サイトと結託までして信憑性高めたのはやりすぎでした ごめんなさい
けど、来年もやります 多分(笑)
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