エヴァを降りた後、タオルで身体を拭いたものの、完全に水気が取れなかった為、
俺はくしゃみを連発していた。
「みんなご苦労様 あら、吉田君 風邪? じゃ何か御馳走するって約束してたし、
温かいラーメンでも食べに行こうか?」
「さんせーい」 無邪気にはしゃぐアスカを見て俺は肩の荷を一つ降ろしたように感じた。
だが、前途はまだ拓けておらず 降ろさねばいけない荷は数え切れない程あった。
人生とは重き荷を背負った旅するようなものだ と言ったのは誰だったか
思い出しながらミサトさん達の後をついて歩いた。
【変革を求める者】
第25話 「使徒、侵入 上」
例の事件の翌日 俺は38度の熱を出して寝込んでいた。
生乾きの服でうろついたのが原因としか考えられなかった。
不覚 と言うしか無いこの事態を姉も心配そうに見下ろしていた。
「これまで風邪一つ引かなかったあんたが風邪ねぇ……姉さん いてあげられないけど、
本当に大丈夫?」 姉さんは額のタオルを取り替えながら言った。
「大丈夫だって もう子供じゃ無いんだから っくしっ」
強がってはみたものの、喉や鼻は言う事を聞いてはくれなかった。
「中学生は立派な子供よ いいから寝てなさい。 もし熱がこれ以上上がるようなら連絡してね」
そう言い残して姉は出勤していった。
古来より夏風邪は癒りづらいと言うが、年中が夏となったこの日本では風邪を引くと言う事すら
無くなって来たので、予防注射など打つ事が無かったのも、原因の一つだろう。
「そう言えば前風邪を引いたのは小学4年の時 学校の裏の小川を飛び越えようとしてはまった
時以来だな……」
昨日ラーメンを食べた後、アスカをホテルの玄関まで送り 帰路を急いでいた時にすでに寒気が
していたが、普通の風邪の引き方をした事の無い俺にはそれが風邪の予兆だと気づかなかったのだ。
うつらうつらとしていたものの 時計を見てもあまり針は進んでおらず、風邪を引いた時の一日の長さ
と言うものを俺は久々に感じていた。
二階の俺の部屋にはTVはおろかラジオも無く、目が醒めている間は天井の染みの数を数えたり、
頭もとで充電中の携帯電話の充電ランプを見たりして時間を過ごしていた。
「そろそろ学校では二時間目ぐらいかな……今日の二時間目は物理だったか……」
NERVがらみで学校を早引けしたり休んだりするのは出席扱いになるので、
これで中学校に入って初めて 皆勤で無くなる事もあり、俺は少し残念だった。
11時を過ぎた辺りで小腹が空いたので、手の届く所に房のまま置いてあるバナナに手を伸ばし、
二本ほど喰って 額のタオルを替え 本格的に眠る事にした。
どれぐらい寝ていたであろうか 俺は携帯の着信音で眼を覚ました。
「はい……吉田ですが」 ごそごそと布団から手を出して携帯を手に取るまで少し時間がかかったが
電話をかけて来た誰かは切る事無く待ってくれていた。
携帯電話のディスプレイには午後12:30と記されていた。
「あ、私 風邪引いてるんだって?」
「ああ アスカか……この番号教えてたっけ?」
「柄にも無く風邪引いてるって本当ね 昨日ラーメン屋の帰りの時教えて貰ったでしょ」
「そうだったかな…… 今 昼休み?」
「吉田 お昼何か食べた?」
「ああ 11時ぐらいにバナナをちょっと」
「じゃ、今からお見舞いに行くね 20分ぐらいしか時間無いけど」
「え、いいよ たいした事無いし……」
「それがもう玄関まで来ちゃってるのよね〜」
電話が切断され、次の瞬間 ドアホンの音が鳴り響いた。
「失礼しまーす」
下の玄関で足音がばたばたと響いた。
どうやらアスカだけで無くシンジも来てくれているようだ。
「で、吉田どこにいるのよ」
「吉田君の部屋 確か二階だって前話してたよ」
一階で話している二人の声を聞き、俺は嬉しいやら恥ずかしいやら複雑な心境だった。
「じゃ、雑炊を作るから 綾波は入れ物探してよ」
「わかった」
下で話しているのを聞いていると、どうやらレイまで来ているようだった。
そして、とんとんと階段を上がる足音が聞こえて来た。
「どう?吉田 生きてる?」 制服姿のままのアスカが階段から顔を覗かせた。
「ああ 何とかね」
「ぬるくなってるじゃ無い 変えるわね」
すたすたと近寄って来たアスカは俺の額の上のタオルに手をやった。
そしてタオルを水を張った洗面器に浸けていた。
「何よこの水 生ぬるいじゃ無い 替えて来るわね」
そう言ってアスカは洗面器を両手で持って階段を降りていった。
下ではお湯を沸かしているらしく、コンロにかけた鍋の水がぐつぐつ音を立てていた。
「氷入れて来たから当分持つかな」 少しうとうとしている間にアスカが二階に上がって来ていた。
「ありがとう……アスカ」
「丁度二時から オートパイロットがらみの起動テストがあるから お昼で学校抜けて来たのよ
今、シンジがおかゆ作ってくれてるから、その間に汗 拭こうか」
「い、いいよ……」
「風邪引いた時に汗かくのはいい事だけど、流した汗をそのままにしちゃ意味無いの ほら」
アスカは強引に布団を剥いで言った。
「何よこれ 寝間着まで汗びっしょりじゃ無いの ほら脱いだ脱いだ」
あっと言う間に寝間着の上とシャツを脱がされ、俺は戸惑っていた。
身体さえちゃんと動けば 意識さえちゃんとしてれば回避出来たかも知れないが……
「ねぇ 替えの下着とか寝間着はどこよ」
アスカに問われ、俺は仕方無く部屋の片隅の箪笥を指差した。
「タオルもあるかな……あった 下着と寝間着……うわ でっかいトランクス……
吉田ってトランクス派なんだ」
逆セクハラでは無いかと思いながらも俺は為す術も無く アスカが箪笥を漁っているのを見ていた。
「よっと」 半身を起こしたままの俺の背をアスカが甲斐甲斐しく拭いてくれていた。
そして、後ろから胸を拭き始めたのだが、裸の背中にアスカの胸が押しつけられ、俺は少しどぎまぎした。
そして、アスカに手伝って貰いシャツを着て、寝間着の上を羽織った。
「後は自分でやるから……」
そう言って俺は立ち上がろうとしたが、足元がふらついてしまい再び布団の上に倒れこんだ。
「ほら、もう観念しなさい」 そう言ってアスカは俺の寝間着の下に手をかけた。
「ちょっと アスカ 勘弁してくれよ」
俺は必死になって自分で立ち上がり、自分で着替えられる事を示そうとしたが無駄だった。
「私の裸見たじゃ無い…… そんなに私に見られるの嫌なの?」
そう言われては返す言葉も無く 俺はアスカの為すがままに下着ごと寝間着をはぎとられた。
さすがにアスカも直視する気は無いのか 剥くのと同時にタオルを股間に押しつけてくれた。
「元気になったら 私を剥いてもいいから……ね?」
わしゃわしゃと股間をタオルで拭きながらそんな事を言うものだから、膨張しかける自分自身を必死で
押さえた。 いや、押さえようとした……がそんな事で言う事を聞く筈も無かった。
「拭きづらくなったわね……ん? こ……こら」 アスカもその事に気づいたのか頬を少し染めた。
その後、膝の辺りまでトランクスを穿かせてくれ、アスカが眼を背けている間に俺はタオルを取り、
トランクスをずりあげた。
寝間着の下 を着せて貰った後、俺はアスカに手を貸して貰って階段を降りた。
「ほら、これでも着てたら?」 居間で座っているとアスカが背中に上着をかけてくれた。
「シーツも汗びっしょりだったから替えたいけど、シーツはどこか分かる?」
「シーツなら 二階の押し入れの三段ボックスに入ってると思うけど」
それを聞き、再びアスカは階段を上がっていった。
「吉田君 お待たせ 熱いから気をつけて食べてね」
居間でぼぅ〜っとしてると トレイの上に大仰な鍋を載せてシンジが現れた。
「これ、シンジが作ったのか……」
ほんの10分足らずで作った割に雑炊はとても美味しそうでいい匂いをさせていた。
「うん 近くのスーパーで鶏肉と冷やご飯と雑炊の元を買って来たんだ。
ネギとかは冷蔵庫にあったからそれを使わせて貰ったよ」
「綾波も手伝ってくれたのか」 ふきんで手を拭いたレイが居間に入って来た
「ネギとか刻んでくれたよ 実はこの間から料理 少しづつ教えてるんだ……」
シンジが少し恥ずかしそうに言ったが その理由がすぐには分からなかった。
シンジの横にそっと座ってシンジを見つめているレイを見て
さっきのシンジの言葉が暗にレイと付き合っている と言う意味だとやっと俺は気づいた。
「ちょっとファースト 上がって来て手伝ってよ」 二階からアスカが声をかけたので、
綾波は階段を上がっていった。 シーツを広げて布団にかぶせるのは一人では難しいのだろう。
「今日はこれからシンクロテストだっけ? 時間 大丈夫か?」
まだ熱い雑炊をれんげでかき混ぜながらシンジに問い掛けた。
「ガードの人に頼んで 迎えに来て貰う事になってるから大丈夫」
雑炊を少し口に含んでみたが、食べられない熱さじゃ無いので、俺は雑炊を食べ始めた。
「うん 旨い 10分ぐらい煮た程度でこんなに鶏のスープが出るのか」
風邪を引いていて こうしている間も少し寒気がする俺にとって熱い鶏雑炊は最高に旨かった。
年中夏なので 雑炊を食べる事すら少ないのもあり、雑炊の旨さと言うものを俺は始めて知った気がした。
俺が食べているのをシンジは笑顔で見ていたが、少ししてから台所の後片づけをしていた。
食べおえた頃には 二階の布団のシーツを替え終えたらしく、濡れたシーツを手にアスカとレイが
降りて来ていた。 俺は洗濯機の場所を教えて 放り込んで貰った。
「あ、迎えが来たみたいね」 前で車が止る音がしたので、アスカが立ち上がった。
「それじゃ、僕たちネルフに行くけど、もし具合悪いようなら電話してね 帰りにでも寄るから」
「ああ ありがとう みんな」 俺は三人を見送り、トイレに入ってからゆっくりと階段を上がった。
そしてシーツを替えて貰った布団の中に入ると、すぐ眠気が押し寄せて来た。
小一時間程経ったであろうか 大きなクシャミをして俺は眼を覚ました。
ティッシュで鼻を拭いている時、一つ大事な事を思い出した。
アスカはオートパイロット絡みの起動テストと言ってはいなかったか?
溶けていた時得た知識では オートパイロット絡みの起動テストで擬体にアクセスしている時
にマイクロマシンのような極小の使徒に汚染され、MAGIがあわや乗っとられかけたのでは
無かったか その事を一気に思い出した俺は慌てて 充電していた携帯電話を掴み
赤木博士に電話をかけた。 だが、何十回鳴らしても受話器が上がりそうに無かった。
教えて貰った番号は赤木博士の自室の番号だと言う事に気づき、俺は立ち上がった。
少しでもアスカやシンジ レイに危険が及ぶ可能性があるのなら 俺は黙って傍観する訳にはいかなかった。
前回は無事だったからと言って今回もそうだとは限らないのだ。
俺はもつれる足で普段着に着替え、滅多に着ない親父のコートをひっかけて家を出た。
もう余り残された時間は無いかも知れないので、
俺はタクシーを呼ぼうと一番交通量のある街角まで歩いていった。
そしてタクシーを待っていると、一台のミニパトが通り過ぎたかと思うと急にターンして俺の目の前で
停止した。
「繁智 あんた何やってるのよ!」
「姉さん……丁度良かった NERVのゲートまで頼むよ」
「分かったわ 取り敢えず乗りなさい」
俺は開いていた助手席に座り込んだ。
「あんたまだ熱あるじゃ無い そんな身体で何が出来るって言うのよ」
どうやら昼食を届けに来る途中だったらしく、後部座席にはサンドイッチの入った袋が置かれていた。
「どうしても伝えないといけない事があるんだ……だから 頼むよ」
そこまで言って俺は目が眩んだ ゲートに到着するまで少し休もうと思い、俺は抵抗しなかった。
20分程で いつも使うゲート前に到着し、俺は姉さんと別れてゲートを通った。
俺は一人でNERV内の通路を這うような速度で歩きながら 赤木博士のいるであろう場所を
探していた。
かとすると薄れて行きそうな意識に活を入れ、 俺は前へ前へと歩いていった。
・
アンダルシアの青い空 グラナダの唄が聞こえそうになるとヤヴァイらしい
・
俺に何が出来るのか 何かを為しえる事が出来るのか それはまだ分からないが
アスカ達を救う為前に進む事 今の俺にはそれだけで充分だった。
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いつの間に……シンジ やるな
よくやったな・・シンジ
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どうもありがとうございました!
第25話 終わり
第26話
に続く!
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