トイレから出てきたミサトさんが異変に気づいたのは 二本目を飲んで10分後であった。
「ちょっと……あんたら何で顔 赤いのよ」
「ほえ?」 真っ赤な顔で上機嫌で洞木さんと何かを話していたアスカが顔を上げた。
「シンジぃ…… おまえ もっと積極的にならんといかんぞ! 身近な所に女いるんだし」「そうだよ おまえ 羨ましい環境なんだぞ」
トウジとケンスケはシンジに絡んでいた。
レイはと言うと、冷蔵庫から出てきたペンペンを抱きしめて小言で何か呟いていた。
俺も二本目の途中から眠気のような物を感じていたが、ようやく異変に気づきかけていた。
そう 狂乱の夜は始まったばかりであった。


【変革を求める者】

第21話 「奇跡の価値は Dパート」

注意 地雷埋設中 

「私は酔ってなんか……無いわよ」アスカはミサトに水を飲むように薦められていた。
俺は座布団を枕に横たわっており、半分うとうとしていたが、アスカの声で眼を覚ました。

「ビール二本ぐらいならアルコール中毒になんかならないわよ 放っておいたら?」
赤木博士はつまみのカシューナッツを齧りながら少し座った眼で呟いた。

「駄目だ……全然吐かないよ…… 大丈夫だとは思うんだが」
足元がふらついているトウジを連れて加持さんがトイレから出てきた。

「ふぅ……眠い……」 俺は身体を起こし、焦点の定まらぬ眼で周りを見渡した。
惨澹たる有り様 一言で表現するならその言葉が相応しかった。

シンジはバケツを抱えて時折唸っているし、アスカはミサトさんに介抱されており、
レイはと言うとさっきまでの俺同様 テーブルにもたれて寝息を立てていた。
トウジは加持さんに連れて来られて取り敢えずソファーに座らされていた。
ケンスケは少し赤い顔をしているだけで元気そうだが、
誰かを呼び止めては熱い戦略論を語ろうとしていた。

 事ここに至ってようやく原因がバドワイ○ーにある事に俺は気づいた。
アスカが似た缶と間違えたのか、それとも確信犯なのかは分からない……
烏龍茶をコップに数杯 バドワイザーを二缶呑んだせいか俺は尿意を感じて立ち上がった。

「トイレ借ります」 その時 酔いが足に来ている事に気づかずふらついたが倒れる事は無かった
だが、上着のポケットから包装された包みが落ちてしまった。
普段なら落ちる前に掴む事が出来るのだが、初めての酔いのせいで俺の感覚は充分に働いていなかった。

「何?それ あのデパートの包装紙じゃ無い…… こっそり何買ってるんだか……」
眼が座っているアスカに見とがめられたのが俺の不運であった。
「いや……まぁ……その」 アスカに渡す為とは言え、裸身を見てしまったお詫びだとは
皆の前で言える筈も無く、俺は口ごもってしまったが、それがアスカに取っては何らかの
確信の種になってしまったようだ。

「トイレ……行くんでしょ 私も使いたいんだからさっさと行って来なさいよ」
アスカは寝ているレイの顔をちらりと見てから、強めの口調で俺に罵声を浴びせた。

 今、何を言っても言い訳にもならないので、俺は居間を退散し、トイレに向かった。

「良く考えたら……何て言って渡せばいいんだ……」 用を済まして手を洗っている最中
ふと俺は肝心な事に気づいた。

 さりげなく渡す事が出来たら、遠まわしに今日の件だと思って貰えただろうが、
事が露見してしまった今 何の捻りも無しに渡した所で素直に受けとって貰えそうには無かった。

「別にどうでも……いいか」 今の自分がこうしてあるのはシンジ達をより良い未来へ誘導する
為であり、自分自身のこういう問題を優先させるべきでは無い……そういう一種の逃げ 的思考が
俺の中で渦巻いていた。

 誰に指摘されるまでも無く、それは明らかな欺瞞……本当は近づきたいのだ……アスカに。
カ○ジっぽくなったかな 無理かw
自分の欲求を表に出す事を恥ずべき事だとこれまで思っていた事もあり、
自分の変節とも言える行動に俺は戸惑っていた。 女性に媚びるなど漢のする事では無い筈だった。

俺は沸き上がって来た煩悩を打ち払うべく、正拳突き100回をこの場でやりたい欲求に苛まれたが
そんな事を実行すれば単なる変人であるので我慢し、出来るだけ平然と自分の座っていた場所に戻った。

 そして20分程経ち、パーティーはお開きとなった。
エレベーター二台に分乗して俺達は一階のホールに降り立った。
マンションの入り口は常夜燈が灯されており、蛾がまとわりついていた。
年中夏とは言え、午後7時半の外の空気は少し冷たく 酔った自分には心地良かった。

「おいトウジ ゲーセン寄って行こうぜ 新型入ってるんだ」
「ああそやな 10分ぐらいなら……」
「あんた達 寄り道しちゃ駄目じゃ無い もう夜遅いんだから」
「ホンマに委員長は煩いなぁ……10分ぐらいええやないか」
「分かったわ お目付け役として私も行くわよ」
「え、委員長も来るんか?」
「10分程なんでしょ? 別にいいじゃない それじゃおやすみなさい」
トウジとケンスケと洞木さんと言う珍しい三人組が夜の闇に消えると、
俺とアスカとレイが残されていた。

加持さんと赤木博士は シンジの介抱が終わったら飲み直すようで、
まだ下に降りて来てはいなかった。

「そういう訳だから、レイちゃんとアスカを送ってあげてね 家同じ方向でしょ?」
先程のアスカとのやりとりを見ていたのか、部屋を退去する際にミサトさんは
少しにやけた顔で俺にそう告げた。

「じゃ、行こうか 綾波さんの家の方が近いんだよな」
「私は駅前だからちょっと遠いけどね」
アスカのホテルへ行くルートとは少し迂回しているが、ミサトさん曰安全の為 なので
三人でまずレイの家に向かう事となった。

 午後7時半を少し廻っただけだと言うのに、ミサトさんのコンフォート17の周りは静かだった。
何を話せばいいのかも分からず、俺達は無言で歩き続けていた。
街灯を通り過ぎた時に前方のアスファルトに映る三人分の影を何気なく俺は見つめていた。
気のせいか、俺の影が二人よりも少し薄いように一瞬感じた。

「私、ここだから」 レイの言う通りの路を通って行くと大きい三叉路に突き当たった。
三叉路を左に曲がった所に見えるマンションがレイの目的地のようだった。
暗に見送りはここまででいいと言うかのように綾波は俺達に一礼して、三叉路を左に曲がった。
右に曲がれば駅のある市の中心部である。

「いいの? 部屋まで付いていかなくて」
去っていく綾波の背中を見ているとアスカが囁いた。

「黒服が付いて来てるんだし、大丈夫だろう」
そう 安全の為 などと言うのは詭弁なのだ。

「そうじゃ無くて、部屋まで送りでもしないとプレゼント……渡せないでしょうが」

「あれは……その違うんだ……」 何と説明していいか分からなかったが、
俺は取り敢えずアスカの誤解を解く事にした。

「ふぅん……まぁ いいけどね」 アスカはそう言って歩き始めたので、俺は無言でついて行った。

三叉路を右に曲がって5分も歩くと段々賑やかな街の喧騒が耳に入って来るようになってきていた。

「あれがビールだって……知ってたのか?」
赤信号で足を停めた時、俺はさり気なくアスカに問いかけた。
すると、アスカはさも変な事を聞かれたと言う顔つきで俺の方を向いた。
整ったアスカの顔が通り行く車のライトで時折照らされて陰影が強調されていた。
「あんたはちっとも顔に感情を出さないから……本音が知りたかったのよ……」
アスカは何かを言おうとしたのか唇を少し開けて少し逡巡した後、小声で呟いた。

聞き様によっては告白とも取れるアスカの独白であったが、
俺は薄紅を付けているアスカの唇に俺は少し魅入ってしまっており、
信号が青になるまで金縛りのように向かい合って立ち尽くしていた。

「見えて来たわね……」 アスカが投宿しているホテルの看板が見えた時、アスカは小声で呟いた。
「いつまでホテル暮らしをするつもりなんだ? 不便じゃ無いのか?」
そんな事を問うつもりでは無かったが、ふと口から言葉が飛び出してしまった。

「NERV本部内に部屋構えて貰う事も出来るけど……あんな穴倉に住んでたら息苦しいのよ」
アスカの本音と言ってもいい言葉を聞き、俺はアスカの苦しさの一端を知った。
溶けていた時、アスカの境遇についてある程度知ってはいたが、二度目の今回は
前回に比べると多少打ち解けていたので、その事をつい忘れてしまいかけていたのだ。

「あんたの家はもう反対方向になっちゃったでしょ? それとも電車に乗った方が早いの?」
俺がいつまで経っても引き返そうとしないので、アスカが俺の方を伺い見た。

「部屋まで送るよ……渡したいものもあるし。」
俺はこれ以上話す事は無いとの意思を込めてアスカの返事を待たず歩きはじめた。

プレゼントを渡すなら部屋までついていって渡せ
と言ったアスカのアドバイスをそのまま適用する事にしたのだ。

 俺達は無言でホテルに入り、エレベーターに乗り込んだ。
軽くGがかかりエレベーターが上昇を始めた。

「あれ、ファーストに上げるんじゃ無かったの?」
「違うよ……どうして?」
「だって、今日もファーストに付きっきりで世話焼いてたじゃ無い」
「それとこれとは違うよ」

俺は自分で自分が何を言っているのか 何故こんな態度を取るのか分からなかったが、
こうするしか無い と言う意思のせいか、次から次へと言葉が湧き出ていた。

 止まったエレベーターからアスカの部屋に向かうまでの間、アスカはそわそわしていた。
アスカが部屋の鍵を開けている間に、俺はポケットからプレゼントを取り出した。
アスカが扉を開け振り返った時、俺は間髪を入れずにアスカにプレゼントを手渡した。

「あ、ありがとう……開けてもいい?」
アスカのその問いに俺は黙って頷いた。

アスカは中に入るように手招きしたので、俺は昼間と同じソファーに座った。

さほど厳重に梱包されてる訳でも無いので、・某同人誌か?w
包まれていた水晶のペンダントがすぐに姿を現した。

 アスカは無言でそれを見つめていたが、
これがレイに渡すべく買った物では無い事を確信出来たようだった。

「その……ありがと これ、大事にするから。」
アスカは水晶のペンダントトップを握り締めて少し顔を上気させて答えた。

何かが違うような気がした。 昼のお詫びの品として買った筈が、
そう受けとられずに、まるで告白の為のアイテムかのように受け止められていたのだ。
1800円の品でそんなだいそれた事は考えていなかったのだ。
だが、渡す物を渡したので帰る俺をアスカがドアまで見送る時に、
俺の顔を見つめてそっと眼を閉じた時には、そんな事どうでも良くなっていた。

 アスカのホテルから出て街路を歩いていて、
ふと俺は唇にまだアスカの感触が残っているようなそんな感じがした。

家に帰り着いた時に姉に指摘されるまで唇にアスカの薄紅が付いていた事など気づきもしなかった。





御名前 Home Page
E-MAIL
ご感想
          内容確認画面を出さないで送信する


どうもありがとうございました!


第21話 終わり

第22話 に続く!


[第22話]へ

[もどる]