「乗って!」 車のドアロックを解除した姉さんの指示に従い、
俺は助手席に乗り、狭い後部座席にシンジ・アスカ・レイが座った。
「ジオフロント経由でNERV本部まで! 道分かるよね?」
「まっかせなさーい」 赤いランプを屋根に乗せて姉さんが車を発進させた。
急加速して走り出し、サイレンを鳴らしてNERV本部に向かう姉さんの横顔
を見た時、初めて勤務中の姉と出会った事に今さらながら気がついた。
【変革を求める者】
第17話 「静止した闇の中で 下」
「一番近いゲートに向かうわね!」 道路の各所で停車している車を器用に避けて
姉さんの運転するミニパトは第三新東京市を疾走していた。
「あうっ イタタ」 カーブを曲がる度、レイとアスカの体重がかかり窓枠に押しつけ
られてているシンジが弱音を吐いていた。 後部座席の中央にはアスカが座っており、
助手席の後ろにはレイが座っていて、時にはレイにも荷重がかかるものの、
レイは一言も喋る事が無かった。
「ここが一番近いわね」
姉さんは誘導の人員の制止を振り切って車を建物の中に突っ込んだ。
「ここは……カートレイン乗り場? 電力供給止まってるのにどうするつもりなんだ?」
「何かに掴まっててね」
と言うや姉さんはカートレイン乗り込み口の脇の隙間に車を飛び込ませた。
本来は車を固定して降りて行くレールの上に車を走らせるのだと気づき、
俺は少し青くなった。 後ろでシンジ達も声も無く進行方向を見つめていた。
最大で仰角が45度近い所もあったが、ミニパトは臆する事無く下っていった。
「ほら、NERV本部が見えて来たわよ あれでしょ?ピラミッドみたいな奴」
姉さんは運転しながら助手席越しにジオフロント内を見渡して言った。
「前見てぇ〜〜」
ストレスと恐怖が自制心を越えたのか、アスカが蚊の鳴くような声で弱音を上げた。
「ところで電力停止してるって事は、立ち往生している車もあるんじゃ無いかな」
俺は先程から浮かび上がって来ている疑問を口にした。
「大丈夫よ 上りと下りが同じ場所で立ち往生さえしてなければ通れるわ」
そうこう言っている内に下り路線に立ち往生している車を発見し、
姉さんは車線(?)を変更し、事なきを得た。
もうこの頃には後部座席の三人は声を上げる事も出来なくなっていた。
約10分後 姉さんの操るミニパトは終点に辿りつき、強引に段差を乗り越えて
カートレイン乗降の建物の外に出た。
「あ、警察無線が使えるようになったわ ちょっと連絡するからハンドル握ってて」
通行する人も車も殆どいないとは言え、俺にハンドルを預ける姉の心臓には毛が生えて
いるのでは無いかと思いつつ、俺は姉の脇に手を通してハンドルを握った。
「ええ 現在NERV本部に急行中ですので、NERVの保安部に連絡して下さい」
姉は1分程警察本部と連絡を取り合っていた。
「通るゲートに電気を流して貰えるようにしたから、大丈夫よ」
ハンドルの上部中央を右手で押さえて、後ろを振り向きながら姉さんは俺達に報告した。
「了解……」
「わかったわよ……」
「おかげで早く着けそうです ありがとうございます」
三者三様の返事を見て俺は少し安堵した。
NERVの本部施設のビル(ピラミッド?)に入ってからは俺が無線を受けて
NERVの保安部と連絡を取り合いながら通るルートを確保していった。
途中で、選挙の宣伝カーに乗った日向さんと合流し、予想より早く俺達は第一発令所に
辿りつく事が出来た。
使徒の接近については無線が通じてすぐ連絡していたので、到着した時にはエヴァの発進
準備が始められていた。
「みんな よく来てくれたわね」
俺達の到着を待っていたのか、赤木博士が飛び出して来た
「エヴァは出撃出来るんですか?」
シンジは一礼して車から降りると、赤木博士に問いかけた。
「ええ 今、碇司令が準備してるわ
プラグスーツを控え室から準備させて来たから、着替えて頂戴」
三人は懐中電灯とプラグスーツを受けとって発令所を出ていった。
「警察無線とも交信出来ますから、使徒の情報が入れば報告しましょうか?」
姉さんがミニパトから顔を覗かせて言った。
「そうね じゃ、何かあれば日向君に伝えて頂戴」
赤木博士は日向さんを指差して言った。
「ところで、葛城作戦部長はどこですか?」
俺は多少それらしい情報を知っていた為、作戦遂行の為 口出しするつもりであった。
「いないのよ 多分、どこかで立ち往生してるみたいね」赤木博士は肩を竦めて言った。
「使徒は直上で停止したそうです!」
警察無線経由で早速情報が入ったのか、姉さんが車の窓から顔を出して言った。
「恐らくマトリエルは、ジオフロントへ自ら侵攻出来ないでしょうから、何らかの方法で
攻撃を行うと思います エヴァを出撃させる時は、飛び道具に注意するように、
言って貰えませんか?」 俺は小声で赤木博士に話しかけた。
「吉田君……あの使徒の名前……5分前にMAGIが名前をマトリエルと名づけたばかり
なんだけど……この際、知ってる事は全部言って頂戴
あの子達の危険を減らしたいんでしょ?」
無線で聞いた とか、実は予知能力があってそれで知ったとか 何らかの言い訳を考えようとした矢先に赤木博士に見透かされて俺は内心焦った。
「攻撃方法は酸で、それを縦穴から下に落とすと言う事しか知りません……
ですから、うかつに使徒の直下に飛び出さないようにすれば……
それと、酸を出している部分にパレットライフルを連射すれば倒せる筈です
ATフィールドの有無は分かりませんけど……」
「今……碇司令がいなくて良かったわね ケージに行って三人に合流して、
私からの敵の攻撃方法予測って事にするから警告してらっしゃい」
「分かりました 行って来ます」背中に汗が二筋流れるのを感じた。
「あ、今度納得の行く言い訳を聞かせて貰うから……」
去りぎわにリツコさんはそう言って凄味のある笑みを見せた。
数分後 着替えおわった三人に俺は合流し、赤木博士からの警告と言う形で、
うかつに縦穴に出ないように伝えた。
「わかったわ まぁ任せておきなさいって」
「了解……」
「ありがとう 気をつけるよ……」
そう言って三人はエントリープラグに入った。
三人の出撃を見届けてから、俺は発令所に戻る事にした
通路を小走りで歩いていると、前方に人影が見えた。
「ん……君か シンジが世話になっているそうだな……葛城君に聞いているよ 」
冷淡に無視されると思っていたが、碇司令は振り向いて話し始めた。
「いえ……それより、スーパーバイザーの件 ありがとうございました」
「期待しているよ……」 そう言って碇司令はサングラスを押し上げた。
すでに家族構成から家族の思想信条 まで全部洗っているのだろうと俺は思った。
下手をすれば親父や姉さんに迷惑をかける事にもなりかねない程、
NERVの……いや、秘密により近づいている事を俺は再認識した。
肝心の戦闘の方は、横穴から右手だけ出してパレットライフルの一連射で使徒は沈黙した。だが、連射と同時に振って来た酸により、初号機の右腕とパレットライフルは焼け爛れて
おり、うかつに前に進んでいたらどうなったかを想像させるには充分であった。
使徒が沈黙して20分後……ようやく電力が回復していた。
「電力も回復したみたいだし、失礼致します」
姉さんがミニパトから降りて来て、赤木博士に話しかけた。
「御協力感謝します ところで、御名前は?」
「はっ 吉田智子巡査であります」
「姉さん 帰るの?」 姉さんの話し声をききつけた俺はミニパトの方へ歩いていった。
「吉田君の……お姉様ですか? 吉田君にはいつもお世話になっています」
「いえいえ……繁智に出来る事なら何でもこきつかってやって下さい」
「じゃ、繁智 頑張りなさいね」 そう言って姉さんはミニパトを発車させた。
「あら、ミニパトのお姉さん帰っちゃったの? お礼まだ言って無かったのに」
服を着替えたアスカがシンジとレイを引き連れて現れて言った。
「……宜しくお伝え下さい」 小声でレイが礼を言った
「兄弟って……いいですね」 シンジが遠い目をして言った。
「いやー 酷い目にあっちゃったわぁ〜」
その時、ミサトさんが気怠そうな顔で発令所に現れた。
「ミサト どこにいってたのよ?」
「エレベーターに閉じ込められてたのよっ 空調効かないし、死ぬかと思ったわよ」
「あら、吉田君来てたのね 後始末終わったら、みんなで吉田君の就任祝いって事で
ご飯食べに行きましょ」
「どうせ、NERVの食堂でしょ?」 アスカはじと眼でミサトを見て呟いた。
「アイタぁ ばれちゃった? 今月は車の修理費がかさんでねぇ……」
「あれだけ車あったら維持費だけでも月に凄い事になってるじゃ無いですか……」
わいわいと話をしている皆を見て、俺は正直、羨ましかった
俺はあくまでも皆の絆の枠の外の住人なのだと言う事を実感したからだ。
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どうもありがとうございました!
第17話 終わり
第18話
に続く!
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