「使徒を捕獲する深度で戦闘をして危ない目に会うよりは、N2爆雷でダメージを与えて
おいた後、深度を上げた所で迎え撃つなら、ナイフでしとめる事も出来るし安全性も高まる
と思うんだ…… だから、その方向性でやってみてくれないか アスカ」
「わかったわ……わざわざ危険を犯すのは愚か者の所業よね あんたの策に乗ってあげるわ」
「ありがとう……」 今この場でこの状況で伝える言葉では無かったが自然に俺の口を突いて
出たのは感謝の言葉であった。
「変な奴ね……私たちを心配したからそういう事考えてくれたんでしょ? お礼を言うのは
私たちの方よ……安心しなさい バシっと決めてくるから……」
「そうだよ……そこまで僕たちの事を考えてくれて……その 嬉しいよ」
二人の心に真意が届いた事もあり、不覚にも俺は涙を流しそうになってしまっていた。
地の底に潜り想像を絶する敵と戦う二人の不安を少しでも削ぐ事が出来たのも心底嬉しかった。そして30分後……作戦は開始された。


【変革を求める者】

第15話 「マグマダイバー 下」


「何ですか あれ」 シンジの声がモニタールームのスピーカーから流れて来た。
モニターしている初号機のカメラ経由で上空を飛ぶ三機の飛行機を視認する事が出来た。
「UAの空軍が空中待機してるのよ この作戦が終わるまでね」
赤木博士が作業の手を止める事無く即答した。
「手伝ってくれるの?」アスカが眼を輝かせて言った。

「いえ、後始末よ」
「私たちが失敗した時のね」
赤木博士とマヤさんが非情な台詞を辛そうな顔で言った。
「どういう事?」
「使徒をN2爆雷で処理するのよ 私たちごとね」
「ひっどーい」
「そんな命令 誰が出すんですか」
「碇指令よ」

俺は二人の表情を見て、その心底を伺う事が出来たが、
音声情報しか届かなかった二人にはさぞかしキツい言葉だっただろう。

「赤木博士……シンクロなんですけど、部分的にカットとか出来ませんか?」
「どういう事?」
「仮に何かあった時、初号機が溶岩内に入る時とかに、熱さを感じる可能性のある
表層部分のシンクロだけカット出来るように準備しておいたらいいんじゃないか
そう思いまして……」

「そうね……それは不可能じゃ無いわ そういう事態になった時、ボタン一つで
特定の部位のシンクロを切るようなプログラムを用意して置くわ マヤ 出来る?」
「あ、はい 5分程貰えれば」
「最善は尽くすべきよね……」
ミサトさんへのあてつけの要素を少し交えてリツコさんが答えた。


そして15分後 弐号機の出撃準備が始まった。

「レーザー 作業終了」
「進路確保」
「B型装備異常無し」
「弐号機発進位置へ」
日向さんとマヤさんが交互にチェックをしていった。

「了解 アスカ 準備はどう?」
ミサトさんがプラグ内のアスカの映像を視ながら言った。
「いつでもどうぞ」 アスカは早くも気持ちを切り替えたのか、
これからの作戦に集中しているようだった。
「発進!」 ミサトさんの命令により、弐号機をつり下げているアームから
ワイヤーが下ろされていった。、

「弐号機 溶岩内に入ります」

数分後……安全深度の限界に近づいたものの、まだ使徒の発見に至ってはいなかった。

「深度1300 目標予測地点です」 マヤさんが手の甲で汗を拭いて言った。
ケーブルの巻き上げ等の操作はマヤさんがやる事になっているので、
事実上アスカの生命を預かっている緊張感からだろうか、汗をかいていた。

「アスカ? 何か見える?」 ミサトさんはモニターを見つめながらアスカを呼び出した。
「反応無し いないわ」
「思ったより対流が早いようね」赤木博士は予測範囲値のグラフに眼を通して言った。
「作戦継続 再度沈降よろしく」

深度1400で内部循環バルブに亀裂が発生したがミサトさんは顔色一つ変えなかった。

「深度1480 限界深度オーバー」 空調は効いているもののアスカが汗を流して
耐えているのを視ているとこっちまで汗が出て来そうだった。

「目標とまだ接触してないわ 続けて アスカ どう?」
もしアスカが弱音を吐いたら引き上げるつもりであっただろうが、
プライドに凝り固まっているアスカがそれに同意する訳も無く、
危険な深度にまでアスカを送り出しているのを見て、俺は歯がゆかった。

「まだ保ちそう さっさと終わらせてシャワー浴びたい」
「近くにいい温泉があるわ 終わったら行きましょ もう少し頑張って」

「限界深度+120 エヴァ弐号機プログナイフ喪失」マヤさんが声を震わせて報告した。
「限界深度+200」
「葛城さん! もうこれ以上は! 今度は人が乗ってるんですよ!」
日向さんが堪え兼ねて顔を上げた
「この作戦の責任者は私です」
表情一つ変えずミサトは言い切った。

もしアスカやシンジが死ぬような事があれば、俺はこの拳にかけても償わせてみせる……
俺は内心そう誓った

「ミサトの言う通りよ 大丈夫 まだ行けるわ」
モニタールーム内が騒然としはじめた時、アスカが返答を返した。
もし、その言葉が無ければ俺か日向さんかマヤさんが命令に背いて引き上げさせただろう。

「深度1780 目標予測修正地点です」
これで見つからなければ処罰覚悟で引き上げるつもりなのか、
マヤさんはケーブルのスイッチに右手を置いていた。

「いた」 限りなく透明度が低いマグマの中でアスカは目標を発見した
次の瞬間にはモニターに使徒の幼生体が確認出来た。

「捕獲準備!」

すでに危険深度を大幅に越えているが、使徒を見つけてしまった以上、
ミサトさんは作戦を中断しないだろう。

「お互い 対流に流されてるから接触のチャンスは一度しか無いわよ」
「わかってる まかせて!」
その後苦労して使徒を捕獲する事に成功した。
だが、そのまま終わるとはとても考えられなかった。

「ちょっと待って下さい 使徒を捕獲した事によって引き上げには弐号機単体より
ケーブルに負荷がかかるんじゃ無いですか? それ 計算してますか?
すでに危険深度をオーバーしてるんですよ! 柵を一端手放して安全速度まで浮上し、
N2爆雷を作動させたらどうでしょう!」
ミサトがどう応えるか分かってはいたが言わずにはいられなかった。

「マグマの粘度と柵の重さとサイズを考慮して計算しているけど……予測しきれないわ」
ミサトが何か言おうとした直前、赤木博士が答えてくれた。

「使徒の捕獲が任務なのよ! 使徒の殲滅は捕獲に失敗した時の為よ! 引き上げて」
ミサトさんは懐に右手を突っ込んで言った。
邪魔をする者……がいれば銃を抜くつもりなのだろう……

「もし、拙い事になったらそうするから……」
アスカは俺が苛立っているのに気づいたのか、モニターに向かって苦笑した。

「捕獲作業終了 これより浮上します」完全に使徒を閉じ込めている事を確認して、
アスカが報告した。

そしてケーブルが巻き上げられ始めた。
「アスカっ 大丈夫?」
これまで息を詰めて見守っていたシンジがアスカに労いの声をかけた。

「あったり前よぉ 案ずるより産むが安しってね」
そういいつつもアスカの眼は深度計に注がれていた。
「でもこれじゃプラグスーツと言うよりサウナスーツよ はぁ〜早いとこ温泉に入りたい」
安全深度内まで引き上げられたのでアスカが安堵の声を漏らした。

「緊張がいっぺんに解けたみたいね」
リツコさんが各種モニターに油断なく視線を配りながら呟いた。
「そう?」
「あなたも今日の作戦……恐かったんでしょ?」
「まぁねぇ 下手に手を出せば、あれの二の舞ですものね」
その瞬間、アラームが鳴り響き、アスカが表情を変えた。

「何よこれぇ〜」
アスカが叫ぶのも無理が無い話で、柵の中の使徒の幼生体は激しい運動を初めていた。
「マズイわ 羽化を始めたのよ」 リツコさんがモニターを凝視して言った。

「アスカ! 柵を放してN2爆雷のスイッチを入れるんだ 完全に羽化してからじゃ遅い!」
俺は何か言いかけていたミサトさんより早くアスカに指示を出す事が出来た。

「了解っ」 アスカは使徒を閉じ込めている柵を手放し、柵はゆっくりと沈降していった。
そして、ATフィールドを展開させながらスイッチを押した。

 今まさに完全なる成長を遂げようとしていた瞬間に電磁柵に取りつけていたN2爆雷が
炸裂し、使徒の幼生体を吹き飛ばしたかのように見えた。

「アスカ! 緊急浮上!」
ミサトがそう叫んだ瞬間、火口内にてN2爆雷が破裂した為、溢れた溶岩が飛び散り、
モニタールームのある建物にも降り注いだのか、モニタールームの照明が落ち、
非常用電源に切り替わった。

「危ないです 早くそこから出た方がいいですよ 裏口なら大丈夫ですから」
非常用電源に切り替わった直後、シンジからの通信が入った。

「総員退去! リツコ みんなを率いて脱出して!」
「ミサト あなた残る気?」
「私にはアスカを最後まで見届ける義務があるの! 私が死地に行かせたのよ?」

「マヤさん ケーブルの操作は外でも出来ますか?」
「最低限のモニターと操作はこれで出来ます」 マヤさんはノートパソコンを取り上げて言った。

「ミサトさん……ごめん!」
俺は振り向きざま、ミサトさんの鳩尾にアッパー気味に拳を打ち込んだ。

「うっ」ミサトさんは一言呻いて気を失ったので、慌てて俺はミサトさんを支えた。

すでに日向さんや男の職員は裏口の確保に行ったので、この場には俺の他にはリツコさんと
マヤさんしかいないので、俺は肩にミサトさんを苦労して担いだ

「行きましょう!」 天井が溶岩のせいで焦げているのに気づいて俺は二人を急かした。

ようやく裏口を出て、小高い丘に向かっていると、上空から三機の飛行機が降下を初めていた。
「糞っ 連絡が途絶えたからか」 これは悪夢と言ってもいい事態だった。
ATフィールドで守られているシンジとアスカ以外は俺を含めてこの場で蒸発する運命にある
事に俺は気づいた。

その時、初号機が予備の為に持って来ていたパレットライフルを取り上げ、上空に向かって
威嚇射撃をした。

「いい判断だ……シンジ!」 俺はミサトさんを肩に担いだまま叫んだ

エヴァンゲリオンがまだ健在である事を確認したせいもあるだろうが、三機の飛行機は再び
上空に上昇していった。

「アスカから報告! 初号機が投げ入れたナイフで、N2爆雷で弱っていた使徒に止めを
差したそうです ケーブルの強度がかなり危ないので、柵を放置していいか聞いていますが」
マヤさんがノートパソコンを赤木博士に指し示して言った。

「止めを差したのなら、マグマの中で放置しておけばさすがの使徒も溶けるでしょう いいわ」
「はいっ! アスカ 柵を放置して! ケーブルを巻き上げるわ」

「シンジに連絡してくれ ケーブルの巻き上げ装置にも溶岩がかかった筈だから、
万一に備えておいてくれって!」

「わかったわ…… 例のプログラムもすぐ使える状況よ」


初号機は弐号機のケーブル巻き上げ装置の側まで移動しているのを確認して、
俺はノートパソコンの画像をマヤさんの肩ごしに覗きこんだ

「あと300Mです 順調に巻き上げ中」

無事に弐号機が回収出来るかと安心したその時、巻き上げ機にケーブルが一瞬噛みこみ、
次の瞬間 切断された。 N2爆雷の衝撃でダメージを受けていたのだろう。

「せっかくやったのに……やだな ここまでなの?」
ノートパソコンからアスカの絶望の声が聞こえて来たが、俺はシンジを信じていた。
次の瞬間初号機はマグマの中に飛び込んだので、俺はケーブルを100メートル程放出
するのとプログラムの実行をマヤさんに指示した。

速やかに放出されたケーブルを初号機はマグマの中で左手で掴み、ゆっくりと沈降していく
弐号機に右手を差し出しているのが、弐号機のカメラで視認する事が出来た。

「うっ……シンジ? バカ……無理しちゃって」
アスカの呟きを聞いて俺はようやく安心する事が出来た。

「ん……ここは?」 俺はミサトさんを肩に担いでいるのをようやく思い出した。
「今降ろしますから暴れないで下さい」俺は日向さんを呼んでミサトさんを地面に立たせた。

「アスカは?弐号機は無事?」 左右を見渡しながらミサトさんが第一にアスカの安否を心配
しているのを見て、俺は内心ほっとしていた。

丁度その時、弐号機を右手で掴んだ初号機が巻き上げられて来たのをミサトさんは呆然として
見ていた。

「シンジ君がマグマの中に飛び込んだの? 装備も無いのに……」
「プログナイフを落としたり、N2爆雷を落としに降下して来た飛行機にパレットライフルで
威嚇射撃したりもしたんですよ 吉田君のN2爆弾やシンクロ一部カットのアイディアと
シンジ君の迅速な決断のおかげだと思います……」
マヤさんが俺と初号機を交互に見て言った。

「それと私を気絶させて運び出した事もね……」
すっかり炎上しているモニタールームのあった建物を見てミサトさんが呟いた。

「後始末はUNがやるから、引き継ぎしたら温泉に行きましょ」
ミサトさんはノートパソコンに向かって話しかけた。


「ヘリは大丈夫です いつでも発進出来ます」
男性職員が確認しに行ってたのか、戻って来て伝えた。

俺はこれ以上ここにいる必用も無いので、ヘリに乗る為にヘリポートに向かって歩き始めた。

「あ、吉田君 急いでネルフ本部に帰らないといけない人多いから、席空いて無いわよ……
温泉にでも入ってゆっくりしてらっしゃい」 赤木博士がこの場を去ろうとしていた俺に
話しかけて来たので、俺は足を止めた。

「そうですか……じゃシンジとアスカを労いに行って来ます」
俺はシンジ達のいる方へ振り向き、足早に駆けていった。

風呂のシーンは本編準拠

第三新東京市に戻って来て二日後……シンジが一枚の封筒を俺に手渡した。
中には俺の作戦部付きのスーパーバイザーとしての任命書と新しいカード
が入っていた。 ようやくミサトさんに認められたのであろう。
赤木博士や伊吹二尉の推薦があった事を後で知る事となった。




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どうもありがとうございました!


第15話 終わり

第16話 に続く!


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