アスカが俺達の学校に転校して来て一週間も経つと言うのに、
休み時間ともなるとアスカ見たさに2年A組を訪れる者が後を絶たなかった。
それも正々堂々と話しかけるのでは無く遠巻きにして眺めているのであった。
「もう〜これじゃまるで私が珍獣か何かみたいじゃない……」
アスカは早くも仲良くなった洞木さんに小声で話しかけているのが聞こえた。
【変革を求める者】
第10話 「瞬間、心、重ねて 上」
「大丈夫か? シンジ スプレーだけじゃ痛み取れないなら医務室に行こうか?」
二時間目の体育の授業でサッカーをやっていてシンジが足首を軽く捻挫してしまった
ので、俺は体育系クラブの生徒にスプレーを借りてシンジの足首を治療していた。
「まったくだらしないわねぇ サッカーごときで足首痛めるなんて……」
洞木さんと話していたアスカがこっちの方を向いて侮蔑の表情を浮かべた。
「目の前にボールが転がって来たから、蹴らなきゃって思って焦ったんだよ……」
シンジはゲームの間、いつも左右のどちらかのサイドのギリギリの位置におり、
積極的にボールを奪おうとしてなかったのだが、キックミスによりボールが
シンジの位置まで転がって来たのであった。
だが、シュートが顔面に激突するような事故も少なく無いので、
これぐらいで済んだのは僥倖と言えるかも知れなかった。
「ドイツでは身体能力の向上もパイロットの義務の一つだったけど、日本ではそんな
事無いのかしらね……筋力・持久力・反射神経どれを取ってもドイツなら失格よ」
アスカは憐れみの表情を浮かべて言った。
「君は小さい頃から訓練してたんだろうが、シンジはパイロットになってから一ヶ月
も経って無いんだから、仕方無いだろう? 見学者もいるんだこの話は終わりにしよう」
俺はアスカとの話を切り上げた。
「ん?」 俺は誰かの視線を感じて左を向いたが、綾波は本に目を落としていた。
そして目線をシンジの足首に戻した時、シンジとアスカとレイの携帯端末が鳴り響いた。
「非常招集よ!」アスカはそう言って立ち上がった。
綾波は無言で立ち上がり、シンジもそれに続こうとしたが、足首の事を忘れていたのか
椅子に慌てて腰をかけた。
「肩を貸すよ」
俺はシンジの右足をかばうようにシンジの右脇に手を差し入れて左肩を掴んだ。
「ありがとう 吉田君」 シンジは俺の支えもあり、何とか歩きだす事が出来たが、
その足取りは遅々として進まなかった。
アスカは我先に飛び出して行っていたが、レイは先行しながらも俺達の方を見ていた。
「綾波さん ネルフに連絡して車を迎えに出すように伝えてくれないか?
警備の人間がいる筈だから校門の所で待機させるように!」
綾波は黙って頷いて携帯端末を取り出し、小声で伝えていた。
「すぐ準備出来るそうよ」 綾波は電話を切って振り返った。
「そういう事だから、校門まで我慢すれば大丈夫だ。 行けるか?シンジ」
じっとしていてもあれだけ痛みを訴えた訳だから、俺がカバーしているとは言え、
こうして早歩きしているだけでも相当な痛みだろう。
あまり時間的余裕は無いだろうから、俺は一つの案を思いついた。
「シンジ 俺の背中に!」 俺は足を止めて、腰を落として言った。
「いいの? 吉田君」
シンジは一瞬戸惑ったが足の痛みには勝てず、俺の背に黙ってしがみついた。
俺はシンジがしっかりとしがみついている事を確認して立ち上がり、
シンジを振り落とさない程度の早いペースで校門に向かった。
少し先行していた綾波が駄箱から靴を出して揃えておいてくれていたので、
時間的なロスもあまり無く、校門前の黒塗りの車に辿りつく事が出来た。
アスカはもう一台の車でネルフに向かったそうなので、俺はシンジを後部座席に
座らせた。 助手席も黒服のエージェントが占めているので、
綾波は俺の隣に黙って腰を降ろした。
「出してくれ それと作戦部長にサードチルドレンが右足首を痛めてるって事を
伝えてくれ」 そう俺が告げると運転席の男は車を急発進させ、助手席の男が
本部に連絡をしているようだった。
車は最短距離を走り、5分程でケージに一番近いフロアに辿りついた。
「パイロット控室まではこれで!」
待機していた女性職員がストレッチャーをシンジの前に持って来ながら言った。
俺はシンジに手を貸してストレッチャーに乗らせる事が出来た。
「私……先に行くから」 綾波レイはもう心配は無いと見たのかそう告げて去った。
「何かおおげさだな……」 シンジはストレッチャーの上で居心地悪そうにしていた。
「それじゃ行こう」 俺は女性職員の先導の元、シンジの乗るストレッチャーを突いた。
少し恥ずかしがったものの、一人ではプラグスーツが着れない為、
シンジの着替えを手伝った後、俺はシンジを伴ってケージに向かった。
「シンジ君! 足、どうなの? 痛みは我慢出来そう?」
ケージにはミサトさんが待ち受けていた。
「多分大丈夫だと思いますけど……」 エントリープラグ内では足は投げ出すような感じ
なので、それ程痛みは感じないだろうと思っての発言であろう。
「使徒はどこまで侵攻してるんですか?」
俺がここにいる事に違和感を感じさせないように気を配りながら質問した。
「まだ海中よ 10分後ぐらいに旧小田原に上陸の予定よ
今回は水際作戦と言う事になるわね。 まだ第三新東京市の防御体勢整って無いし」
ミサトさんはシンジを支えている俺を見て、少し躊躇してから言った。
「ネルフはN2爆弾を保有してますか?」
俺は先日から考えていた案を実行に移すべくミサトさんに話しかけた。
「N2爆弾は通常用が4発程あるけど、投下する為には戦自に依頼する事になるので、
指揮権を委譲して戦自が保管している投下用のN2爆弾を使って貰ってるような状態ね」
「使徒の能力も掴めて無いみたいですし、まずN2爆弾を投下して使徒が自己再生モード
になって動きが鈍くなってる時にエヴァでの近接戦闘をすれば安全だと思いますが……」
「仮に第三新東京市の中でN2爆弾を使う時にも政府の許可がいるのよ!
殆ど無人とは言え他の地域でN2爆弾を投下なんて出来ないわ!
前から言おうと思ってたけど、部外者にあまり口を挟んで欲しく無いわ!」
ミサトさんは少し激昂して言った。
断罪したくなるな
「すみません……シンジの調子も完調と言いがたいので口を挟みました」
事を荒立てては今後困るので俺はすかさず謝る事にした。
「そうね……まぁ検討して置くわ。 今回はアスカも一緒だしそれ程負担は無いと
思うから大丈夫よ あ、シンジ君を連れて来てくれてありがとう」
もう用は無いと言わんばかりに形ばかりの礼をミサトさんは俺に示した。
俺はこれ以上ここにいつづけるのは得策で無いと判断し、ネルフを辞する事にした。
使徒が迫りつつあると言うのに列車は動いているので俺は学校まで帰る事が出来た。
シンジの事も気がかりだったが、もはや何の手助けも出来ない自分が歯がゆかった。
そして、翌日
教室に入るとすでにチルドレン三人組は登校していた。
「おはよう 昨日はあれからどうだった?」
恐らく失敗した事はシンジとアスカの二人の態度から察する事が出来たが、
俺がその事を知る筈も無いのでその態度を貫く事にした。
「着地の瞬間、シンジは転ぶし、私だけで対処したけど……分裂したのよ
っもう〜あんなのって無いわよ!」 苛ついているのか右手を握り締めて言った。
「だって、着地のショックと僕の右足が痛いのが逆フィードバックされたみたいで」
シンジは小さい声で言い訳を言った。
「それと、空手の練習場の事だけどどうにかならない? 終わりの方になると大学生
の視線が目ざわりなのよね 他の場所を用意して貰えないかしら」
アスカは今度は標的を俺にしたようで、不満を並べ立てた。
都合により先週の金曜に一度練習をしたのだが、周囲の雑音に集中力を途絶えさせて
しまったのだ。 アスカのような美少女が空手をしていれば大学生じゃ無くても寄って
来るのは仕方無いだろう。 綾波にも密かなファンがいるようだが綾波は気づいて
無いのか、涼しい顔であった。
「じゃ、ミサトさんに本部施設を使わせて貰うように相談して置くよ 」
恐らく機嫌が悪いだろうミサトさんに合わねばならない事で俺は少し憂鬱だった。
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第10話 終わり
第11話
に続く!
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