喫茶室から加持リョウジ氏が出て行くのを見て、俺はトイレに行くふりをして彼の後を付けた。
艦載機のエレベーター付近の手すりに一人でもたれているのを見て俺は近づいた。
「おや、どうしたんだい? トイレの場所なら案内するけど?」
「あなたに話があります……」俺は静かに言い放った。
「俺に? 俺は君の事も良く知らないんだが……もしかしてミサトの事かい?」
加持氏は訳が分からないと言う表情で俺を見つめた。
「いえ、違います 特務機関ネルフ特殊監査部及び日本政府内務省調査部所属 更にはゼーレ
にも通じている諜報員としてのあなたに話があります。」
この辺りで手駒を増やしておかないと破局は回避出来ない……
俺は溶けていた時に得た情報を有効活用する事にした。


【変革を求める者】

第8話 「アスカ・来日 中」


これは一つの賭けであった。 もしかしたらこのままゼーレに報告されて、不穏分子として消される
可能性も多いにあるからだ。 今この場でなら銃を抜かれても蹴りを放つ事が出来るが、
狙撃でもされた日にはどうしようも無いだろう……俺は緊張しながら加持氏の反応を待った。

「おやおや……俺には何の事だかさっぱり分からんよ」
と言いつつ、加持氏の手は懐の拳銃に伸びているのが俺には分かった。

「あなたが運んで来た物を、碇司令に渡すのは止めて下さい。」
その一言で加持氏は凍りついたかのように動きを止めた。

「君は何者だね? 俺の知りうる限りの諜報機関に君のような若いエージェントがいたとは、
寡聞にして知らなかったよ」
懐に伸ばしていた手を加持氏は引っ込めて言った


「サードチルドレンとファーストチルドレンの同級生にして、空手のコーチですよ……ただの学生です」

「ただの学生ね……」

「もうすぐ使徒が来る筈です……その時のごたごたの際に荷物を始末して貰えませんか?

「もう一度聞くが、君は何者だね?」
使徒の襲来と聞いて加持は眉をひくつかせた。

「人類補完計画の齎した未来から遡って来た者ですよ…… あなた このままじゃ消されますよ
あなたが求めている真実とやらは、私に協力してくれれば全て明らかにする事が出来る筈です。」

「名前を聞こうか……」

「吉田繁智と言います 連絡方法はいずれまた……」

緊迫している俺と加持氏の間を風が吹き抜けて行った。

「加持さん どこにいるの?」 通路から惣流アスカの声が聞こえて来ていた。

「おーい ここだ」

「こんな所にいたの? 探したんだから んっとあんたは何故ここにいるの?」
加持氏と対峙していた俺をアスカは不審そうな眼で見つめた。

「トイレに行ってから帰る途中で迷っちゃって……案内してくれるかい?」

「そっ わかったわ 空手の話も聴きたいしね」
二週間も過ごしただけあって、迷う事無くアスカは俺を元いた喫茶室に連れ戻してくれた。

俺を送り届けた後、再びアスカは加持氏の所に足早に戻っていった。


「どうだ? 碇シンジ君は」
「つまんない子 あんなのが選ばれたサードチルドレンだなんて幻滅」
「しかし、いきなりの実戦で彼のシンクロ率は40を軽く越えてるぞ」
「うそ!」
「それとアスカにお願いがあるんだが……」
「私に? 加持さんのお願いなら何だって聞いちゃう」
「吉田君とか言ったかな……彼に接近して貰いたいんだ。」
「あのブラックベルトのジャパニーズニンジャに?」
「ん?ブラックベルトは分かるがニンジャってどういう意味だ? アスカ」
「凄い身のこなしで、サードチルドレンの連れの帽子を空中でキャッチしたのよ
でも、何で接近しないといけないの?」

「んー俺にもまだ詳しい事は分からないんだが……頼めるかな?」
「いいわよ どうせ彼の所で黒帯取るまで空手習うつもりだから。」
「そうか お願いするよ」


「さて……どうするかな」
加持は自分の部屋に置いている荷物に心を馳せていた。


俺が喫茶室に戻って10分程してから移動する事になり、エスカレーターで雑談していた。

「サードチルドレンっ それとさっきのあんた ちょっと付き合って」
エスカレーターの降り口で惣流アスカが仁王立ちで待ち受けていた。


「紅いんだ 弐号機って……知らなかったな」
「違うのはカラーリングだけじゃ無いわぁ」
アスカは弐号機を安置している船上の幕をめくって言った。

「所詮零号機と初号機は開発過程のプロトタイプとテストタイプ 訓練無しのあなた何かに
いきなりシンクロするのがいい証拠よ けど、この弐号機は違うわぁ
これこそ実戦用に作られた世界初の本物のエヴァンゲリオンなのよ 制式タイプのねっ」
エントリープラグ挿入口で器用にも立ったままアスカは説明していた。


「ふむ……眼が二対あるのは一対が使えないなどの実戦上でのトラブルを考えているからなのかな」
俺は浮き通路のすぐ側で横たわっている弐号機の顔を見て言った。

「そうよ 分かってるじゃ無い それとプログナイフも違うのよ」
アスカはプログレッシブナイフが装着されている右肩部分に足を進めた。

「っと きゃっ」 その時、弐号機の右肩に移ろうとしていた時に水中衝撃波が襲いかかり、
足を滑らせて、調整液の浮いているプールに向かって右肩をずるずると滑っていった。

「危ないっ」 俺は浮き通路の上を走って弐号機の横顔を踏んでアスカが水面に落ちるであろう
場所まで走って行った。

「うわ……あっ あっ」 浮き通路が揺れたせいでシンジはしゃがみこみ浮き通路にしがみついた。

惣流アスカは弐号機のつるつるした右肩をゆっくり滑り落ちていった。
「こっちだ 手を伸ばせ」 俺は弐号機の顎に足を載せて手を伸ばした。

「わ……わかったわ」 アスカは必至になって俺に手を伸ばしたが、何故か摩擦係数が減り
一気にアスカが滑り落ちて来た。

俺は落ちてきたアスカを必死に抱き留めた。

だが……
「きゃっ どこ触ってんのよ 離してよ」
その際、アスカのわき腹に手をやっていた為アスカがくすぐったいのか暴れ始めた。

「うわっ 馬鹿 よせ」
だが、半狂乱になっているアスカを抑えきる事が出来ずに、
俺はアスカを抱きかかえたまま調整プールに背中かか飛び込む事となった。

「んもう最低 調整プールのこの味何とかならないのかしら LCLの比じゃ無いわよこの味は」

まるでうがい薬のイソジンのプールで泳ぐような感じであろうか……
黄色だったドレスを調整液に染めてアスカが激怒していた。

「大丈夫?」 調整液のプールの脇まで出てきていたシンジが俺とアスカに声をかけた。

「全然大丈夫じゃ無いわよっ もう最低っ」

「あそこで暴れなければ良かったのに……」 俺はTシャツを脱いで絞りながら言った。

「きゃっ レディの前で何て格好してんのよ!」
上半身を晒している俺に気づいたのか、アスカが顔を背けた。

「そうだ シンジ君 さっきの衝撃波は何だったのか、聞いてきてくれ」
俺はその正体に気づいてはいたが詳細は知らないので情報収集をシンジに任せる事にした。
「もう〜しょうがないわね……こっちにいらっしゃい 風邪引いちゃうでしょ……」
アスカは絞ったTシャツを再び着ようとしていた俺の手をひいて、階段脇まで連れていった。

「吉田君 惣流さん 使徒だっ 使徒が接近中!」
俺達の姿が見えないので、シンジは調整プールの入り口で叫んでいた。

「急がないとね……ほら、これ」 そう言ってアスカは俺に 真紅のプラグスーツの入った袋を手渡した。

「これを、俺に着ろと?」 
すでに階段の一つ下で着替え始めたアスカはそれに答えなかった。

それにシンジがここにいないので、俺がアスカと行動を共にする事になったようなので、
俺は腹を据えて服を脱ぎはじめた。


「あんた、エントリープラグに入った事ある?」
着替え終わったアスカが俺に問いかけた。
「一度ね……」
「じゃ付いて来なさい 邪魔しないでよね?」

俺はアスカと共にエントリープラグに入り、オートで弐号機の体内にSETされた。




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第8話 終わり

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