「僕 吉田さんに空手を習う事にしたんだ その内実験台になって貰うから」
シンジは人に拳を向ける事が出来る訳無いのを知りながらもそう言って笑った。
「そうなんかい ええのぉ わしも本格的に習うてみたいのぉ」
「俺の知り合いの道場なら問題無いから遊びに来いよ」
「そやな 妹の怪我が治ったら遊びに行かせて貰うわ」
「一件落着だな めでたいめでたい」
相田も笑みを漏らして言った。
「空手……日本古来の武道……エヴァを有効的に運用するのに……有益」
と教室を覗きこんでいた綾波レイが呟いていた事を後で知る事になった


【変革を求める者】

第3話 「免疫抵抗力」


「えいっ」
凛としたかけ声が発せられるや、道場にいる黒帯一人・白帯二人は整然と正拳突きを始めた。

ストレッチを30分程こなし、身体が温まって来てからの正拳突きの練習であるから、
あまり体力の無い白帯二人は20分もすると、動きが鈍くなって来ていた。
20分とは言ってもゆうに300本はこなしたであろうか 
白帯二人……シンジとレイは汗をしたらせていた。

「休め!」 俺は動きを止めて二人に号令した。

最初の日曜日の訓練を含め、もう6回もの練習をシンジとレイはこなしていた。
ネルフの訓練扱いなので、週に二度 午後二時には道場に来て汗を流していた。
日曜日は午前中に3時間の自主的な訓練をしていた。

最初は挨拶やかけ声を 漢らしく”押忍”と呼ばせようと思っていたのだが、
相手がシンジとレイである為、俺は妥協して好きなように呼ばせていた。
だが、道場に先輩やら道場主が来た時だけは声を振り絞って押忍と呼んでいた。

「本来なら1200本やって貰う所だが、シンクロ試験とかに差し障るから正拳突き
はここまで」 俺は二人に座るように指示して、自分も腰を降ろした。

俺は鞄からスポーツ飲料を取り出して、二人に差し出した。

「いただきます」 シンジは受け取るや否やスポーツ飲料の蓋を開けて飲み始めた。
「……」レイは何も言わずにジュースをちびりちびり飲んでは道着の胸元を開閉して
空気を入れていた。 Tシャツを着させているとはいえ、汗で身体と一体化したTシャツ
など、煩悩と妄想を助長させる事しか出来なかった。


今思えば、シンジとの待ち合わせ時間に、学校指定の道着を持って綾波レイが現れた
のは驚きであった。 以前のレイなら恐らくそんな事はしなかったであろう事は難くない。


「だいぶ動きが良くなって来たよ 二人とも」
二人がほぼスポーツ飲料を飲み干した所で俺は声をかけた。

「本当? 吉田君」
 二人を指導している内にすっかり打ち解けて来たシンジが嬉しそうに答えた。

「ああ……だけど持久力はまだまだだぞ 小学生だって300本ぐらいはやるんだから」

「これまで……運動とかあまりしなかったからね けど身体を動かすのが気持ちいいって
事が初めて分かったよ」 シンジは照れ笑いしながら答えた。

「そういえば、この前の使徒との戦いの時は時間無かったから拳を使わせたけど、
本来は肘の方が破壊力が大きいので、肘を使った方がいいよ エヴァの肘は角張ってるし
当たれば相当痛いと思うよ」 俺は冗談を交えながら休憩時間恒例の空手話を始めた。

5分程して、俺は話を終え、二人を立たせた。

「それでは、前蹴り100回 横蹴り100回 回し蹴り100回やって上がりだ!」

二人はいつも通りのメニューに少し顔をしかめたが、これで終わりと言う事もあり、
俺の指導通りに足技の訓練に励んだ。

そして練習が終わり、 一つしか無いシャワー室を先にレイに使わせてから
俺はシンジとシャワー室に向かった。

「あと10分で大学生とかの練習が始まるから、さっと浴びてさっと上がろう」
俺は服を脱ぎ捨て、板一枚で仕切られた奥のスペースに入り、お湯を出しはじめた。

シンジはタオルで隠しながら恐る恐る隣のシャワースペースに入ってお湯を流しはじめた。

10分後……俺はシャワーを浴び終え服を着替えていると、少し遅れて服を来ていたシンジ
が何か言いたそうにもじもじしていた。

「どうかしたのか? シンジ」 俺はシャツを首に通しながら話しかけた。

「僕も……君みたいに……漢らしくなれるかな? 僕は父さんに捨てられた事もあって
これまで、うじうじしてたんだけど、君に会って 僕も変わって来れたと思うんだ。」

俺はシンジのその言葉を聞き、こうして逆行して来た事が無意味では無かったと知った。

「漢らしくなるのはいいが、俺みたいになると女にもてんぞ」

「もてないの? どうして?」
シンジから見れば俺のようなタイプがもてるタイプに見えて、
俺からするとシンジの方がもてそうに見えていた。

「男・女 関係無く、心を開ける程の人はあまりいないからな シンジが来るまで、
俺はクラスで孤独だったんだからな…… レイは何考えてるのか分からんが、
少なくとも俺を疎外したりはしなかったがな」

「ま、お互い頑張ろうや」俺はシンジの肩をぽんぽんと叩いて部屋を出ていった。

「こんなものかな……」 俺は溶けていた人から知った情報で、
シンジが渚カヲルに接触した時に、これまでの孤独感を癒され、その後裏切られた為、
あそこまで壊れたのだと知り、シンジに免疫をつける為、わざわざ一緒にシャワーを
浴びていたのであった。


「自分の頭の上の蝿も追わにゃならんが……まずシンジだな」
俺は俺がシンジと友達になる事で、シンジまでもが疎外されるのでは無いかと思っていた。
あからさまでは無いが、現在もその傾向があるのだ。

「何とかしないといけないな」


私服に着替えて廊下で佇む俺を二つの紅い瞳が見つめていたが、
俺はその事に気づく余裕すら無かった。




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どうもありがとうございました!


第3話 終わり

第4話 に続く!


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